福留はうんざりしていた。
どうしてこう、何度も何度も人死にが出るのか。本当に死に神なんじゃないのか、四ノ宮絹子。
被害者、馬越純一が殺害されたのは、関係者たちが葬儀に参列していた午前10時~午後12時30分の間。そのうち、葬儀は11時半まで、正午からはの30分間が形式的な会食、いわゆる「厄落とし」だ。
重要なのは、この時間、馬越家には石黒家政婦しかいなかった、という事。
馬越家から万永寺までは往復で30分。葬儀の時間に抜け出した人物はいない、という関係者たちの証言から、犯行が可能なのは石黒だけだと福留は断定した。
当の石黒は
「旦那様が生き返った」
などと錯乱しており、取り調べしようにも話しが通じない。
「――まあでも、この家政婦がやったんだろうな」
「石黒が純一を呼び出して、ドスリ、ですか」
「おう。最初の紀明殺しも、石黒かもな。それで罪悪感から、錯乱してあんなことを」
「石黒には、紀明事件の時にはアリバイがありますよ。自宅にいたって。まあ家族が嘘をついているのかも。
……純一の背中に突き立てられた刀からは、石黒の指紋は出てませんよ」
「拭くかなにかしたんだろう」
「あれほど錯乱している人が?」
「……武内。いったいどうしちまったんだ、お前」
「なんか調子いいです」
「そうか。何か他に思いつかんか」
「……いやあ……諦めました」
「……じゃあよ、最初は強盗、次は石黒の犯行ならつじつま合わないか」
「……さあ……」
絹子は時間を整理していた。
まず、前日夜8時に、純一が部屋に篭る。以降純一を見た人間はいない。
翌朝、朝8時に阿沼コックが料理準備のため馬越家を出る。出際に本間と言葉を交わしている。
続いて藤岡が、前日まで紀明を安置していた「簡易棺」を片付けに、馬越家を退出。午前8時30分だ。
そして一同が万永寺へ出発したのが、午前9時20分。到着が50分で、同時に会場に藤岡が到着、時坂と一悶着。料理が間に合わないと阿沼が泣き付いてきたのが55分で、そこから休む事なく、藤岡と阿沼の二人で料理の準備をしたという。(実際、凄まじい量の食事を捌ききっており、ごまかす余地はない)。
そして葬儀終了が11時30分。12時の会食の時間には皆が万永寺の会食場で食事。本間を除く全員が出席(ただし、12時30分には本間の姿は確認されており、時間的に彼の犯行とは思えない)
対して、ずっと馬越家にいた石黒には、まるでアリバイがない。
状況は石黒に不利だが……。
絹子は、考えた。
これはトリックを使っているだろう。なぜなら、あまりに、できすぎている。絶対に裏がある。ないはずがない。
墓地。
紀明が土葬され、今は馬越家代々の墓の中に眠っている。
だがしかし。
絹子は墓の蓋をずらした。
墓の下は空洞になっていて、ここに棺を運び込み、後から土を流し込む方式。今はまだ土は入れられていない。
絹子は墓穴へ入った。見覚えのある豪華な棺が置かれている。
―――だが妙だ。絹子は棺に手を触れた。触り心地が、粗い。蓋はスベスベしているが、棺本体は木が毛羽立ち、まるで廃材のようだった。
蓋を開けると、死体はなかった。タバコの臭いが鼻をついた。
絹子の推理が当たった。
パズルがカチリとはまりだす。次々とアイディアが浮かぶ。
これなら辻褄があう。
犯人が彼なら、きっとこうする。
―――パズルが完全に、完成した。
「皆さんにお集まり頂いたのは、ほかでもありませんわ。事件の謎が解けました」
翌日、事件の関係者一同は、万永寺に集められていた。みな一様に、何が起こるのか訝しんでいた。
本間は状況を楽しんでいるような、それでいて恐れているような、混ざり合う不安を押しこらえて座っている。
真洋は落ち着いた様子だ。だが時おり、万永寺の住職にお茶を要求しているのは、緊張の証だろう。
時坂は、泰然自若として、何があっても動じない、といった面持ち。
阿沼はしきりに周囲を気にしている。
石黒は無気力に中空を見据えている。
藤岡は、何がなんだかわかっていなそうだ。
福留は1番落ち着きがなく、しかめっつらで柱に寄り掛かり貧乏ゆすりをしている。
武内は、棚に並ぶ仏像と睨めっこだ。
「―――さて」
絹子は、本堂の明かりを点けた。燈籠の光りが、これから始まる出来事の神秘性を演出している。
「これからお話するのは、犯人がどうやって馬越純一を殺害したか、です」
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