その晩のことだ。一同は、居間にて夕食のテーブルについていた。明日の葬式に参列するため、今日は全員が馬越家に宿泊する。
「あまり上物ではありませんが……」
と言いながらコックの阿沼が配膳した鴨のローストは、しかしてなかなか豊かな芳香を放ち、食欲をくすぐった。
「では私はおいとまします。松タイプの棺は応接室に運んでありますので、どうぞご覧下さい。葬儀は明日、万永寺で執り行いますので……。
では皆様、故人の方との最後の夜をお過し下さい」
葬儀社の藤岡は、明日の要項を配りながら長ったらしい口上を述べあげた。出際に家政婦の石黒にぶつかり、流れで夕食を奨められたが、丁寧な物腰で辞退した。
「大変ですね、葬儀社の人も」
石黒家政婦は、ホールケーキをテーブルの真ん中に置いた。――何故ケーキを焼いたんだ、このおばちゃんは。全員が思ったことだろう。歪んだ意図が読み取れた。
「しかし、葬儀出すのが早かったですね」
本間は口いっぱいに、鴨を頬張っていた。食うかしゃべるかどっちかにしなよ、と真洋がたしなめているが、気にする様子はない。
「ああ。早いところ、面倒な儀式を終わらせたいんでね。遺産をもらわねーとな、遺産を。こんな田舎まで来てやったんだから……」
純一は上機嫌に、ゲラゲラ笑った。こんな男が息子では、馬越も浮かばれまい。
「ところで、この家は山ほど倉庫があるんだね」
真洋が話題を遮る。よくやった。
「ああ、紀明君は、古物が好きでな、買い集めては倉庫にしまっておる。アンティークから仏像みたいなものまで節操なくな。聞けば隠し倉庫もあるようじゃが……」
と、時坂。石黒家政婦の介助を受けて、なんとか食事をとっている。
「へえ、すごーい」
黄色い声で、真洋が盛り上げる。気をよくした時坂や石黒家政婦が、この家にある美術品類の事を話し始めた。また、時坂と紀明が知り合ったのはつい最近で、お互い古物マニアであること、石黒の夫も考古学者である事など、わりと話しに花が咲いた。
しかし、
「そら強盗にも入られるわなあ」
と純一が話しに水を差す。
「 ―――純一さんは、隠し倉庫の在りかをご存知なんですか」
さらには阿沼が野暮ったい事を聞いたので、時坂が眉をひそめた。
「―――ああ、まあ知ってるけど、教えないぜ。あれは俺の財産だ。全部俺の金にする」
酒を一杯あおって、また続ける。
「それにね、俺、金が要るんだよ。東京に帰ったら結婚するんだ」
「へえ、おめでとうございます」
「彼女、S商事の社長の娘でさ。まあ金目当てなんだわ。逆玉?アイツ、ブスし」
どうしてこの男は、こんな発言しかできないのか。真洋が「最悪」と舌打ちする。当の純一はニコニコと食器をもてあそんでいる。たまらず絹子は、テーブルを叩いた。乾いた音が、居間の澱んだ喧騒を掻き消す。
「――そろそろ、話してもよいころでしょうね」
絹子に皆が注目した。
そう、この空気。この空気こそが、探偵役の醍醐味と言える。
「―――犯人は、この中にいます」
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