「豪華な棺に祭壇に。最高級の誠意で仏様をお送り申し上げましょう」
甲高い声が応接室じゅうに広まっている。
葬儀社の人間と馬越純一が、葬儀プランを立てていた。死人の出たその日にプランを立て翌日決行という、まさにスピード葬儀だった。純一は葬儀社の男のセールストークにはまり、最高級仏壇「松」を高額オプションつきで買わされそうになっている。
本間晃一は、金絡みの会話を聞くのが嫌になり、庭へ出た。確かに自分も商売人だが、あの商談は『美しくない』。さあ買えほら買えよし買うぜ、そんなものは商売じゃあない。
夕焼けが塀の向こうに広がっていた。美しい。美しい自然が、彼は好きだ。いや美しいもの全てが好きだ。緑の匂いを運ぶ風を胸いっぱいに吸い込むと、心がだいぶ落ち着いてきた。
ふと見回してみると、
四ノ宮絹子が、芝生にしゃがみこんでいた。なにか観察しているようだ。本間は意識的に足音を立てながら、彼女の側に寄った。
「四ノ宮さん、何かお探しですか」
絹子が見ているのは、残された犯人の足跡のようだ。彼女は顔をあげると、長い黒髪をふわりとかきあげ、
「ええ、犯人のミスを探しているのよ。警察の奴ら無能だから、わたしが見つけなければね。だから、あんまり歩き回らないでよ」
絹子の警察に対する憎悪は根深そうだ。
本間は隣にしゃがみこみ、
「――事件は強盗の仕業ってことで、よくありませんか? それよりも、僕と、この美しい庭園でお茶でも」
それに対する絹子の反応は冷ややかで、眉根を寄せて
「人一人死んでるのよ。あなた、どうゆう神経してるの? 真相を闇に葬ったまま、平気な顔をしていられるのは何故?」
「死んだ人間が、アレですからね。みんな酷い目にあってきました。僕はしょっちゅう、殴られたり詐欺師呼ばわりされたり。古物は当たり外れが激しい、値段判別の難しいものだと説明したのに……。あの人はとことん自分本位だった」
「でも、殺人の被害者よ」
それはそうだが、キレイ事すぎないか。どうしようもない人間が、この世には沢山いる。死んでも嘆く人はない。げんに、一人息子はすでに遺産相続の皮算用。家政婦の石黒は次の就職先を探しているし、コックの阿沼も嬉しそうだった。
本間だって嬉しかった。
つまりそれは、誰が殺していても、おかしくはない、ということだった。
「あたしもそう思うな。捜査なんて馬鹿らしいこと、やめなよ」
ふとみずみずしい声がした。姫村真洋だ。両手を腰に当て、庭石の上に仁王立ちしている。
「死んでも仕方ない人間がいるか、てのは別としても……
みんな強盗で納得してる。真相なんてどうでもいいじゃん。家に帰ってダラダラしちゃいなよ」
しかし絹子は反応しなかった。少しのち、ただひとこと、
「絶対見つけるわ……」
とだけ呟き、本間と真洋に見下すような視線を投げ掛けた。
屋敷の廊下を歩きながら、本間が嘆息まじりに言った。
「……信念があるんだろうね」
「信念?」
真洋はぶっきらぼうに返した。「何それ」とでも言いたげだ。
「殺人は許せない。犯罪者は許せない。正義だね」
「……正義、ね」
「彼女にとっては、僕らみたくなあなあで事件を終わらせようとする人間も、罪人に見えてるんだろうな。背後事情は関係なく、ただ事実だけを見ている……。残念だなあ、美人だから付き合いたかったのに」
「ねえ本間、こーゆー言葉があるんだ。
『正義の反対は悪じゃない。また別の正義なんだ』って。つまりそーゆーことじゃない? 判別つけられません、ていう」
「……へえ。誰の言葉?」
「野原ひろし」
「春日部の?」
「そう。足のくさい」
含蓄が夕空に吹っ飛んで行った気がして、本間は苦笑した。
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