被害者は、
馬越紀明、78歳。
馬越運輸、馬越重工、馬越不動産、以上馬越グループ3社の会長である。元々、地元の裕福な商家に過ぎなかった馬越家を、戦後の経済成長に乗じて大財閥に成り上がらせた豪商。あだ名は「金満ジジイ」。
ごたぶんに漏れず、嫌われ者のワンマン人間だった。
死因は、刃物でズッパリ。
広い寝室の真ん中、布団の上から包丁を突き立てられていた。
第一発見者は、出入りの古物商、本間晃一23歳。発見時間は午前7時。前夜10時までは被害者が生きていた、という証言があり、また遺体の死後硬直が進行しているため、犯行推定時刻は昨夜の10時から翌日午前3時までに絞られる。
部屋には争った形跡。また、現金と貴金属類が入った金庫が(壁に埋め込むタイプの金庫なのだが)、壁からくり抜かれて、持ち去られている。庭の芝生には往復分の足跡が点々と、塀の際まで続いており、犯人は塀を越えて侵入・逃走したと目される。
教科書推薦、お手本どおり。
強盗殺人のパターンだった。
「強盗入って、出会っちゃって、殺されちゃった、てな感じでしょうか」
抑揚の無い口調で武内が言った。
「災難すよねえ」
ぽつりぽつりと、呟く。
「いや…だが物盗りにしちゃあ…」
福留は武内に呼応して、声を落としていた。ありがちな強盗殺人だと感じる一方で、どうにも不可解だ、とも感じる。
陰惨な死体だった。首の付け根から尻の際まで、背中を一直線に切り開かれていた。
「やり過ぎだろう、コレは」
被害者の顔面刻まれた苦悶の皺には、彼が死に際に感じたであろう恐怖が、刻銘に記されていた。
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