四ノ宮絹子が手袋をはめ、さていざ死体検分、というところで、聞き慣れたガラガラ声が耳に飛び込んできた。
「四ノ宮絹子、また君かね」
「あら福留さん、よく会うわね」
馬越家当主、馬越紀明の寝室。広々とした和室である。
黄色いテープの奥で鑑識達が忙しく動き回り、そのただ中にぽつねんと死体が転がっていた。
箪笥は殆どが引き出しを抜かれ、収納されていた書類や衣類が無造作に散らかされている。家具もひっくり返され、さらに、窓ガラスは全て粉々だ。
武内はテープを乗り越え、死体の隣にかがむと、
「ホトケですねー」
と平然として言った。顔がのっぺりしたこの若い刑事は、いつもどこか超然としている。悪く言うと、のんびりすぎる。危機感が無い。
その上司福留刑事は、いつも飲酒後のような赤ら顔で、太い眉にデカイ鼻に厚い唇と各パーツもド派手。声まで大きいときた日には、顔を合わせただけで胃もたれしてしまう。四ノ宮絹子が苦手とする相手である。
そして四ノ宮絹子。
鋭い輪郭の中に、整った眉と涼やかな瞳をおさめた、いわゆる、美女である。艶の良いブラックの長髪をかきあげ、ふ、と余裕げな微笑みをたたえる、色気たっぷりの仕草には、たいていの男が見とれてしまう。その魅力は枚挙に暇がない。
そのうえ、これまでかずかすの難事件を解決してきた、とあらば、まさに才色兼美。あまねく男どもが一目置く存在なのだ。
ただし、福留にだけは、その磁力は通じていなかった。
「武内。鑑識手伝ってこい。俺はこの名探偵様と話しがある」
福留が苦い表情で指示すると武内は、
「はあ」
と一声間抜けに返事して、捜査員の輪に混じっていった。
福留は絹子に室内から出るよう、顎で指し示した。
「出ろっての? 冗談でしょ、調べさせなさいよ! 先に来たのは私よ!」
絹子は福留に詰め寄った。福留も負けじと肩をいからせ、脂ぎった赤っ面をずいと前に出す。
「事件はバーゲンセールじゃないんだ! 早いも遅いもあるか! 調べる役目は俺達警察にあるんだよ、この部外者! とっとと去れ!」
これまで絹子が解決した事件には、福留が担当だったものが多い。彼にとって絹子は邪魔者だった。最近では、絹子に手を貸す、犯人逮捕を至上とする刑事も多い。だが福留は例外で、犯罪者が野放しになるよりも、部外者に協力を仰ぎ上司に侮蔑されるほうが嫌なのだ。
「……わかったわよ」
事を荒立てたくない。絹子は肩をすくめ、馬越氏の寝室から退散した。
去り際に福留が尋ねた。
「ところでなんで毎度毎度、殺人現場にいるんだおまえは」
「……さあ。解決して欲しいって、呼んでるのかもね、何かが」
「お前が殺してんじゃないのか」
皮肉めいたジョークのつもりだろうが、趣味が悪い。絹子は、福留に聞こえるように舌打ちした。
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