殺人事件発生。
その報せを受け、N県警捜査一課の福留守刑事は、部下の武内刑事を連れ、現場のM村に急行した。新緑のまばゆい初夏のことだった。
M村は日本のスタンダードな農村である。過疎に悩み、財政難に悩み、農地政策の停滞に悩む。そんな何の特徴もない、もし無くなっても誰からも気にされないような、そんな村だった。
だがどれほど困窮した土地にでも、金持ちはいるもの。M村も例外ではなかった。
パトカーの後部座席で、福留刑事はぼんやりと窓の外を眺めていた。流れる景色は田畑ばかり。はじめは心洗われる風景だと思っていた都会育ちの彼だが、
だんだんうんざりしてきた。
「トメさん、そろそろ飽きてきました」
運転手の武内も同様に飽きているらしい。刑事にあるまじき態度ではあるが。
と、突如として、田畑に変わり立派な石塀が窓の外にあらわれた。しばらく塀沿いに進むと、やがて大きな門が現れる。
「―――スゲー……」
武内が感嘆した。口も目も半開きの、アホ面だ。しかし実際、福留も驚いていた。これほどの邸宅とは。
門を抜けると、丁寧に造園された庭。濃緑の芝生を細いせせらぎが流れ、均整に植えられた松が優雅に風にそよぐ。
庭の奥に、どっしりと居を構える日本家屋。黒々した木の壁が太陽光を受けて、草木の中に浮き上がっている。風格あふれる建物だと福留は思った。
そして目を引くのが、やはり黒い瓦屋根の両端に生えた、馬の首。
「しゃちほこだ」
と武内がのたまった。たしかに似た配置だが、こちらのほうがだいぶ趣味が悪い。ただ、この家は、古い時代から運送で生計を立て、村に貢献した旧家だというから、馬がシンボルでも不思議は無い。
馬越家。
村内随一の資産家宅であり、殺人事件の現場でもある。
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