太陽は昇りつつあるが、まだ薄ぐらい早朝。
一台のバンが農道に停車している。
年季の入った襤褸車で、『本間美術商会』とプリントしてある。本間晃一はドアを開けて、ゆっくりと農道に降り立った。地面は湿り気を帯びて柔らかく、オイルドレザーの革靴の底が、「ぶちゅずぶ」と下品な音をたてた。
「うげえ」
顔をしかめて車内に引き返そうとする本間を、同乗者、姫村真洋がいさめた。
「戻ってどうする。早く用事すませてきてよ」
「だって、靴が、土がさあ」
「新しいの買えばいいじゃん、どうせまた大金が入るんだし」
「……まあ、な。じゃあ行くけど、お前どうする?」
「あたしはここで待ってるね。あの人苦手だし、見張りしてる」
「いいけど…見張りって、別にたいしたもん積んでないよ」
「ああ、まあ、いいじゃん」
彼女は、本間がつい最近雇った助手だ。助手だったはずが、いつの間にやら対等な感じになってしまったが。
今は、とにかく馬越さんに会いたくないのだろう(好き好んで会いたい! なんて人間もまた、いないだろうが。あんな偏屈爺)。適当な口実をでっちあげているらしい。あからさまに口実と分かる口実は、口実ではないのに。
ふふふ、子供めが。
本間晃一は、そんな彼女をほほえましく思いながら、自分一人が馬越邸へ赴く事にした。
鍵が開いていたので勝手に入る。普段からそうしろ、と命令されているからだ。
廊下を進み、応接室へ。馬越氏はいない。再び廊下へ。一歩、また一歩と進むごと、床がきしきしと鳴る。青白い邸内の光加減と肌寒い空気に、本間は身震いした。何気なく寝室を覗いたら、馬越氏が倒れていた。
死んでいた。
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