本編 ★4
 ――どうせまた釣りだろう。モニターに映るあからさまなスレッドタイトルに、ふと心の中で呟いた。
 が、とりあえずどんなものかは気になる。というか、何か引っ張られるような感覚がそこにあって、俺はそのスレを開いた。
 まだだれも書き込みをしておらず、まっさらのスレ。それどころか閲覧している人間も居ないのか、スレ内のカウンターも全くと言っていいほど回っていない。
 一番初め、スレを立てた奴の書き込みを見る。
《私、お兄ちゃんの事が今でも大好きだよ。だから……》
 やっぱり釣りか。にしてもつまらない。というか意味がわからない。タイトルからして大したインパクトも無ければ、コメントも面白みがない。いわゆる“クソスレ”、か。
『そうか』
 とりあえず、書き込み。まずは冷たくあしらって反応を見るという魂胆だ。
「…………」
 このまま反応を待とうか……いや、別のスレでも見るか。でも暇だし、待ってみようか。そんなに早く反応があるとは思わないが、何となくページを更新してみる。
《……久しぶりだね、お兄ちゃん》
 ……返信早いな。 ん、久しぶり? こいつ何言ってんだ?
 不可解――というより、意味不明の方がしっくりくるかもしれない――な返信にしばらくいぶかしむ。そうしているうち、何となくではあるが返信の意味を把握した。
「……なりきってんのか?」
 こいつ、どうやら「妹」というキャラになりきってるらしい。痛々しいなまったく。モニターの前で苦笑いしつつも、とりあえず相手をしてみる。
『何が久しぶりだ。お前の事など知らん』
 そういえばこのスレ、人が来てないな。スレが立ったのは午前一時ちょうど、もう既に一時間以上経っている。深夜でも比較的人の多いこのサイトでここまでスルーされるものなのか?
《ひどいよお兄ちゃん……私の事覚えてないの?》
 何か気味が悪いな……。再び更新したページに早速現れた書き込みを見て、俺は何とも言えない感覚を覚えた。それも当たり前だ。こっちが書き込むと、三分、いや、下手をすれば一分も待たずにこいつは書き込んでくる。相当な暇人にしても、ここまで来ると正直気持ちが悪い
 が、なぜだろうか、俺は相手――モニターの向こうに確かにいる、「妹」を名乗る人間――との会話を続けていた。そこには、心の中に引っ掛かるというか、相手に惹かれて居るような、とにかくそんなような「何か」があった。
『だから知らん、というかつまらん』
 さすがにこれを言えば何らかの変化があるだろう。キレるか、消えるか。
《冗談きついよ……。お兄ちゃん……私だよ……まだ忘れてないはずだよ……》
 まだそれを続けるか。いい加減しつこいぞ。お前には他のパターンは無いのか? 相変わらずな反応に、思わず脳内から暴言が転がり出る。
 一体こいつは何が目的なんだ? さっきからよくわからない書き込みばかりで、全く意図が読めない。おまけに他の書き込みは無いし、異常なまでに反応が早い。そういえば、このスレを見てる人間は他にいないのか?
『訳わからん』
 適当に返信して、画面を上にスクロール。この掲示板は各スレの最上部にカウンターが付いていて、今までそのスレを閲覧あるいは書き込みをした回数が表示されるようになっている。ページを更新してその数字の増え方を見れば、それまでに誰か他の人間が閲覧や書き込みしたかがすぐわかる。
 カーソルを動かし、ページを更新する。カウンターの数字は一のみしか回っていない。つまり他に誰も見ていない、相変わらず俺と相手のみという事だ。
「寂しいもんだな……」
 他に誰もいないスレを見ながら、他に誰もいない部屋でふと呟く。何の意味があるんだ。いや、何の意味も無いんだろう。小さく溜め息を吐いて、画面を下にスクロールしていく。
《お兄ちゃん……思い出して……》
 おかしい。書き込みの内容ではなく、その状況がおかしい。さっきページを更新して、カウンターが一つのみ回った――つまり、他に誰もこのスレッドを見ておらず、俺一人が書き込んだ事を確認した。
 しかしどうだ、一回の更新で俺の書き込みと、相手の書き込みが追加されている。この掲示板のカウンターは、閲覧や書き込みがあった分だけ数字が増加するようになっている。書き込みは俺の方が先。じゃあ、相手の書き込みは――
 再びページを更新し、カウンターを確認する。数字はやはり一つのみ回った。
「何だ……?」
 愚痴じみた独り言をこぼしながら、画面を下にスクロールしていく。
 そこで、俺はさらに不可解な事態に直面した。
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匿名読者
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