罪人が幻想入り 12

何故だろう、初めて本物の刀を手にしたけど、重くて、思わず落としそうになった。


それ以上に、なんだか触れてると妙に寒さを感じる。


刀自体は冷たくないのだけど、それを持っている手や腕に寒気を感じる。


この刀には、何か宿っていそうで少し恐くなってきた。



「あの……幽々子さん…。握りましたけど、これをどうすれば。」


「しばらくの間、身に付けていて頂戴。」


けろりと表情を変え言い返される。だけど、こんなの身に付けたことないし、俺としちゃ危ないものを身に付けたくはない。


「ちなみに……それ抜いてみせて。」


ふと、幽々子さんに刀を抜くように指示される。俺は言われるがままに鞘から抜こうとした。


しかし、この刀はまるで最初から抜けないように作られたかのようにまったく開かなかった。


「……っ。む、無理です。」


「はぁ…やっぱりね…。」


幽々子さんはわかっていたかのようにため息を吐き出し、いかにもつまらなさそうな顔を見せていた。


「や、やっぱりとは?あの庭師さん……えと…妖夢さんでしたっけ。その人も同じ状況に?」


俺は刀を静かに刀を床に置く。正直、この刀を持っているとさっきから鳥肌が立ってて静まる様子がなかった。


俺はゆっくりと身体に体温を取り戻しながら、幽々子さんの方を見る。


「妖夢は…抜けない以前に……〝持てない〟のよ。」


悲しそうな顔を見せる幽々子さん。なんだかこの人は表情豊かな人で、嬉しいときには必ず顔に出る人だと俺は悟った。


と、先ほどの発言を思い出す。

〝持てない〟……?


「え、その、持ち主である妖夢さんが持てなくて、一般人の俺が持ててるのでしょうか?」


でも正直、寒気がしててあまり持ちたくはない。


「あら、貴方は一般人じゃなくて生霊、私と同じ幽霊よ。それに、私も持ててたじゃない。」


あ、と思い出し、そう言えばここに持ってきたのは幽々子さんだと思い出す。確かに幽々子さんも持ててるんだし、用は妖夢さんだけがこの刀を持てないというのか。


つまりは、幽霊はこの刀を触れて、妖夢さんみたいな生きている人はこの刀に触れられないと俺は推測する。

そして、この刀は幽霊しか触れない何かの呪いが掛かっていると自分で勝手に決め付けてしまう。


「なるほど……つまり、今弱っている幽々子さんの代わりに俺がこれを持っていればいいんですね?」


「あら、意外と話を飲み込めているじゃない。」


実際は頭がこんがらがっている。答えが出たのが不思議なくらいだ。



それに、もう現実離れ過ぎて、信じられないくらいだ。あまり読んだことないが、これがファンタジーと言えるのか。



そもそも、これは夢にしちゃ、できすぎている。





ん……夢…?





これは……夢…だっけ?






俺が気を緩めたその瞬間、俺はあの暗闇に立たされた。




また来てしまった。




この暗闇に。





ユメで何回ここに来たことか。



それにしても、やはりここは寒い。

寒い。



あの刀を握っている以上にここは寒い。



………刀?



何を言ってるんだ。刀なんて持ってないじゃないか。


それに、俺は刀を握ったことはない。



握ったことのない刀の話が何故出てくる。



馬鹿馬鹿しい。


そうだ、俺は馬鹿だ。

馬鹿だ。

バカだ。



俺は何も思い出せやしない馬鹿だ。




思い……出す……?



俺は、ナニを、オモイダス?



ナニヲオモイダソウトシテイル?




オレ、ハ……。






「ひゅう!北柳ひゅう!」




俺はまた誰かに呼ばれた気がして、ふと目が覚めたかのように、俺は意識を取り戻す。


いや、意識はあったのだが……ちょっとよく覚えていない。



何を思いふけていたのだろう……まぁ、重要なことではないから覚えていないんだ。


うん、そうだ、それしかない。

と、自分に言い聞かせ、意識を視線に集中させる。




と、目の前に美しい顔が間近に迫っていた。



「ぅおあ!?」


俺は思わず後ろに飛び退く。

そりゃ、不意に目が覚めて、目の前に女性の顔が近くにあったら誰だって驚くだろう。


幽々子さんは、俺の鼻先10センチくらいまで近づいていたのだ。



「もぅ、呼ばれたら返事くらいしなさい。」


軽く怒られると、幽々子さんはススス、と廊下に出ようとする。


「あ、あの、すみません。」


「もういいのよ。怒ってなんかいないわ。」


幽々子さんは手で顔下半分を隠しながら笑顔を見せる。


「で、では、何処に……」


「ん、ちょっとお花摘みに。」



そういい残すと、幽々子さんはゆっくりと障子を閉めた。



そういえば、何で俺がこの刀を持っているといいのだろうか?何か利点があるとも聞いていないし。


けど俺は、さっきの出来事で、新たに幽々子さんに関する情報が一つ増えた。


(幽々子さん……胸…でかいな……)

それはもう、間近で見ると鼻血が出そうなボリュームだった。



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Extra.7-1
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幽々子は静かに障子を閉める。


(……一応…気付かれなかったみたいね…)


部屋を後にすると幽々子は玄関の方へと歩きながら、服の裾をめくり上げる。



(あの刀……私でも握れなかった…)


裾をめくり、手の平を露わにすると、そこには真っ赤な痕が残っていた。


どうやらこれは、あの刀を握っただけでこうなってしまったらしい。



(握っただけで…こんな痕が残るなんて…まるで火傷みたいね。)


幽々子はその手の平を見つめながら、片手でその痕を摩り始める。

火傷みたいにくっきりと、赤く手の平に残る痕はいくら摩っても消えはしなかった。


(やっぱり簡単に取れない…ややこしい『呪い』ね。)


摩るのをやめると、手を握ったり開いたり手の運動を始める。


ちゃんと動くことを確認すると、その手を裾に戻す。



(この呪いがある限り妖夢は刀を握れない。この刀を握れなかったら私の樹に取り付いた雑草も取り除けない……)


幽々子は先ほどひゅうと見つめていた桜の樹を見つめる。


よく見ると、蔦が絡んでいるのがわかる。その蔦からは葉っぱが生え、この樹に住み着いている感じにも見える。



(……あの蔦は私の生命力を糧に成長している…このまま生やしたまま放っておくとやがて私の命も尽きる。そしてこの蔦は妖夢でしか伐れない。)


桜の花びらも、徐々に落ちてきている。次なる蒼く茂るはずの葉っぱも弱弱しく茂るばかり。そればかりかその理も通り越し、桜の花びらを散らしたら最後。何も生えてこない場所もいくつか見える。


(緑の葉も増えてきたわね……そろそろ活動しないと…)


「そのためにも、今はあの子が必要ね。紫が言ってた通りにあの子は働いてくれるかしら。」


幽々子は微笑んだ。それは、ひゅうに託した自信に思わず笑みがこぼれたのか。

はたまた、他の幽霊に頼んでまでも自分の命が救えないことに対して、不甲斐無く思い、苦笑がこぼれたのか。


その内容は、幽々子と桜の樹しか知らない。

 


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Extra.7-1 End
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Extra.7-2
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「本当にこの森に迷っているのですか!?」


「うまく感じ取れないけど、でも確かにうっすらと霊力みたいなのは感じ取れたんです。」


あたいと文と妖夢は、迷い込んだと思われる近くの森の中を捜索していた。


森の中は飛ぶには不向きの場所で、歩いて探すしか方法がなかった。


(けど厄介だな……あの半霊の話を聞いた分じゃこれは探しにくいな。)


あたいは少々狭いところを通り抜けながら、妖夢の言っていたことを思い出す。


――――――――――



「「な、なんだってーー!!」」


あたいと文は声にして驚いてしまった。


「そんなに驚かなくても…」


「十分にスクープじゃないですか!」



早速、文はメモ帳に内容を書き始めている。

でも正直驚いた、あの有名な西行寺幽々子が霊力をなくしてしまったらしい。


「で、何故に冥界の姫ともあろうものがそんな状態に?」


あたいも人を探す身としては相手の事情を知りたいと思い、こんな質問をしてみた。


隣の天狗は目を光らせながらコクコクと頷いている。別にそんな気で質問したわけじゃないんだが。



「……それは私が刀を握れない理由に繋がるのですが…」


すると妖夢はいつもは身に付けている刀があった腰辺りを軽く空撫でをする。


「それよりも皆さん、一刻も早く幽々子さんを見つけてください!詳しい話は後で言います!」


さっきの弱弱しい声とは打って変わって焦り染みた強い声を響かせる。


天狗もきょとんとしている。ペンを進めていた手も静かに止まっていた。


「では、手始めにあの森を一度探してみましょうか。」


文はペンで森を指す。


その森は、朝霧で妙に寒さ染みたものを見せている。


「小町さん、あの森一帯を一度『視て』もらえませんか?」


自分で思いつきながら結局他人便りか、と、あたいも同じような事をしようとしていたので、静かに同意する。


あたいの死神の眼はちょっと特殊であらゆる生命の魂を見ることができる。


今回は生きている生物を除くように、力を控えめに森を横から見える範囲を見渡す。



「……生命反応…魂がいくつかこの森に潜んでいるのがわかる。」


なんともあたいらしくない真剣な目つきで森を見つめる。こんな鋭い目なんて、いつものあたいらしくないって言うか…なんと言うか…


まぁ、それは置いとき、なんだか妙に霧が視界の邪魔をしている。それ以上に力を使うと森の木々の生命まで見えてしまうから今見ているところで限界だ。


「でも、よくわからない。妙に朝霧がかかっていてよく見えない。」


「ん~、でも探してみる余地はありそうですね。」


文はペンで自分の頭をポリポリとかいている。


「では探してみましょう。」


だっと一番に駆けていったのが文だった。


まったく、おもしろそうなものに興味を持つのはいいけどな……と、思いながらもあたいも続けて森に向かって駆け出した。


「あ、その、えっと。」


そして一番の依頼主があたふたしながらもあたいたちの後を追いかけていた。



――――――――――



そうして、今に至るのだが、かれこれ数十分以上探し始めている。


で、なにが言いたいのかというと、天狗がだんだんと飽きてきているのがわかってきた。


「小町さん、私は何処を探せばいいでしょうか?」


妖夢はあたいにちょくちょくこう聞いては、自分なりに霊力を感じ取りながら探している。


後で聞くと、その妖夢も霊力が半分以下に低下しているらしい。いつも連れている半霊も今日は見当たらない。


そんな不便な状況でも、仕える者として主人を懸命に探している姿には、あたいも熱心に探索することを決意させる。



それとは打って変わって、天狗は最初は走りながら探していると思ったら、ばてたのか知らないが、ゆっくり歩きながら探し出している。


「もうこの森にはいないんじゃないですか~?」


どうやら人探しには興味をなくし、早く記事にしたいとうずうずしているのが視てわかる。



しかし、文の一言も一理ある。あたいも周りを『眼』で見渡したけど、それらしき魂は見当たらない。


それと、ひゅうのような元気な魂も見当たらなかった。あたいは最悪の状況を考えてしまう。


それに、いくら弱っているかとはいえ、相手は冥界の姫。霊力はなくてもそれなりの力はあるはずだろう。そこら辺の毛玉よりも力を持っているに違いないはずだ。



「なぁ妖夢、一度白玉楼に戻ってみるってのはどうだ?」


あたいは文の意見を取り入れ、この話を切り出してみることに。


もしかしたらひゅうも捕まってそこにいるかもしれないし。


「…ん。もしかしたら帰っているかもしてませんね。」



何でそんなことを考えていなかったのだろうと冷静さを取り戻す半霊。そこら辺が欠けているというかなんというか。


「では戻ってみましょう。道は……あ。」



自分の住んでいる家の道ぐらい、覚えようよ…と思いながらもあたいも辺りを見渡す。



……あれ。


あたいは辺りを、見渡す。


………えっと。


あたいは、辺りを、見渡、す。



これは、やばい、かも…?



「何してるんですか二人とも?早く行きましょうよ。」


ここで、文は我先にと上空に飛び立った。


あ、そうか、あたいたち飛べるんだ、と思いあたいも浮くことに。



「あ、待ってください!」


と、半霊があたいの手を掴み、離さない。


どうしたの、とあたいは地上に降り、理由を聞く。



「実は…私、今飛べないんです。」



あたいはまさかと思い、続きを聞く。


「すみませんが、その……おぶってもらえないでしょうか。」



あー、やっぱりと思い、あたいは静かに背を低く構える。


まったく、どうしようもないやつだと思いながらも、あたいの背中に半霊を乗せることに。


半霊は、思った以上に軽かった。


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Extra.7-2 End
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匿名読者
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