「あら、意外とできるじゃない。」
いきなり朝食を作る羽目になったとはいえ、褒められるとやはり嬉しい。
自分もちょうど腹の虫が活動しそうなので、自分が焼いた魚に箸を伸ばすことに。
と、箸を伸ばす瞬間、持っていたはずの箸が、後ろのほうに弾き飛ばされていた。
俺は箸がないことに気付くと後ろでからんと音がしたので振り返ると、そこには持っていたはずの箸が一本は床に転がり、もう一本は壁に突き刺さっていた。
「え?」
俺はそれしか言いようがなく、幽々子さんの方に向きなおしながら疑問を抱いたような顔を見せる。
「それは妖夢の分。」
そんなー、俺が作ったのにー。しかし、この人は食べ物になると目つきが変わる。そう、最初裏から現れたときのように。
「お味噌汁が質素ね、葱だけでもおいしいけど物足りないわ。」
しまいにゃだめだしを食らわされる。それでは腹も満たない。
しかし、ずず、と味噌汁を啜る音を聞いていると無性に腹が減る。どうしても食いたくなってしまった。
「あのぅ、お味噌汁だけでも……」
深々と、相手を刺激しないように尋ねる。すると、ぴたりと動きを止め、俺を見つめる。う、なんだか見透かされているようで恐くなってきた。
「……ふぅ…いいでしょう。一杯だけよ」
お茶碗を静かに置くと、ため息を出すように一息出すと、嬉しいことを言ってくれた。
「本当ですか?」
「繰り返さなくてもわかるでしょう。いいから食べなさい。」
やったー。といわんばかりに、新たな箸で、魚を突っつこうとしたのだが、またもや弾き飛ばされる。
「魚はだめ。」
――――――――――
ずず……と、食後の緑茶を啜る幽々子さん。
ん、和服にお茶……そして、ここから見える庭の風景……
片付けはもちろん俺がしたのだが。
しかし、ここはじつに「和」を感じ取るには最適な場所だ。
よくは見えないけど、庭に咲いている花や木は、綺麗にされている。
特に、あの桜の木は綺麗に咲いている。それはもう見とれてしまうくらいに……
「桜が気になるかしら?」
どうやら、俺の視線の行方を幽々子さんに気付かれてしまったらしい。
「……綺麗でしょ。ずっと咲いているのよ。ちなみに、あれは私が咲かせたのよ。」
え、と俺は思わず身を乗り出してしまう。
「幽々子さんが……咲かせた?」
ふふと、また何処から取り出したのかわからない扇を広げ、顔下半分を隠しながら微笑んでいる。
「ちょっとした手品よ。でも……」
微笑んでいたかと思っていたら、急に真剣な眼差しになり、俺も同じく桜を見つめる。
「でも……このままだと枯れてしまうわ。」
俺は再び幽々子さんを見た。
その顔は切なくて、どこか悲しげだった。
瞬間、通り風が吹き始める。すると桜はみるみるうちに花を散らしてしまう。
このような綺麗な桜が何故急に枯れてしまうのだろうか。
それには、幽々子さんとの関係があるのだろうか。
そして、俺はついに、ここに来た理由を知らされる。
風も静まり、桜の花びらは庭に落ち行く。その様子は、どこか切なく、幽々子さんと同じ表情を見せた。
―――――――――
幽々子さんはすっと立ち上がり、廊下に出てってしまう。俺に待ってなさい、と一言を残して。
少しすると、幽々子さんは戻ってきた。
片手に刀を持ちながら。
「幽々子さん、それは……」
「刀よ。」
いや、それはわかりますが……
「これはね、ここの庭師の刀なの。」
「あぁ、確か……妖夢さんでしたっけ。」
そうそうと頷きながら座る幽々子さん。そして、その刀をテーブルの上に置くと、幽々子さんは少し深刻な面持ちで刀を見つめている。
「……この刀は、庭師にとっては重要なものであり、妖夢にとっては大切なものなの。」
幽々子さんは頻りに話している。俺は聞き耳を立ててよーく聞くことに。
「その妖夢がね……最近になって…この刀を抜けなくなっちゃったの。それは庭師にとっても、妖夢にとっても一大事なの。」
ふむふむ、と、首を動かしながら聞いているが、その妖夢という人物がいまいち想像できない。会っていない人の想像をするのは難しいものだ。
「その時からなの、私の本来あるべき能力がなくなっちゃったの。」
「そ、その能力ってのは。」
さっきの話を聞いていると、桜の花を蘇らせる、または、植物の寿命を長くさせることができるのだろうか。
「ん~、それは取り戻せてから見せてあげるわ。」
うまく言葉にできなさそうに悩んで、残念そうに俺に微笑む。今度は口が隠れていない。
「それって、その取り戻せる方法があるんですか?」
さっきの話を聞いていると、まだその能力を取り戻せる余地はあるみたいに聞こえた。
「あるわよ。だから貴方が必要だったの。」
「へ?」
俺は思わず度肝を抜かれた。そんな重大そうな任務が俺にできるわけがない。静かに幽々子さんの食事を負かされているほうがいい。
「この刀を貴方が握って欲しいの。まず、そこから始めて欲しいの。」
すっ、とテーブルに置かれた刀をすっと前に出される。
俺は、静かに受け取り、両手で刀を握った。
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