罪人が幻想入り 5


俺は腰を下ろすと、小町のように手を頭の後ろで組みながら寝てみた。


まぁ、手枷のせいで多少は寝心地は悪いが。


俺はここで心を落ち尽かせ、深呼吸することに。


「―――」


俺にはよくわからないが、空気にも味があるらしい。

俺は初めてわかった気がする。



――うまい。



本当に透き通っていて、少し甘味を感じられる。


簡単に言うとハーブティーを甘くして飲んだ心地だ。


「――すごい…落ちつきますね。」



思わず言葉をもらしてしまう。そんな様子を小町に見られ、にっこりと微笑むと

「ここは私の休憩場でね、落ち着きたい時にはいつも利用してるくらいだ。」



と、楽しそうに俺に言ってきた


「ここは…憩いの場所だ。」


俺もそれには共感できる。本当にここは心を落ち着かせることができる。これが、自然の恵みなのだと、初めて実感できる場所だ。俺は、うんうんと首を縦に振った。



「こらぁ、あたいのなわばりでなにしてんのさぁ!」


そんな中、暴風のような横風が入ってきた。


 



――――――――――――


「おっと、おいでなすったか。」


小町はよっと起き上がる。俺も、同じように起き上がろうとした。

そこには目を疑うような光景だった。



う…浮いてる……?


「っんなっ!?」


俺は驚き、うまく起き上がれず尻餅をついてしまった。

だ、だって目の前にいる小さな女の子が…宙に……っ!


「お、おお、小野塚っさん!?」


「なーにびびっているのさ、ありゃさっき言ったここの妖精さ。」


そ、そんなこと言われてもっ。大体、俺の想像していた妖精とは全然違っていたのだ!


「おーい、チルノ。ちょっと来てくれー」


チルノといわれた少女は、素直にこちらに向かって飛んできた。


すごい…本当に浮いている…空中浮遊とはまさにこのことだ。

彼女はゆっくりと地上に降りてくる。彼女の背丈は小さく、映姫より小さいと思う。


「あ、こまちだったか!」


あの位置ではよく見えなかったらしく、小町を見るや、チルノは何やらいきなりふんぞり返ったかのように偉そうな態度になる。



「わたしはなにさま!?」

「チルノ様」

「わたしはつよい!?」

「すんごくお強い」

「だからなんなの!?」

「チルノ最強」




…なんだこれ。微妙な駆け引き、ってか、小町がやる気がないのは見て分かる。

それなのに、チルノは上機嫌。小町に「よびすてにするなよぅ」と腰をぱしぱしと叩いている。


「む」


と、チルノの目線がこちらに。空中浮遊のトンデモ少女がこちらに興味を示している。


「こまち、あいつは?」


「ただの外来人だよ。」


まさにその通り。別段悪いことはしていないはずだ。だから俺に何もしないでくれ。


「あたいたちは、ここの湖で一休みしてたのさ。」


そうそう、俺は小町に連れられてここに来ただけだ。

チルノは、「おー、いつものか」と納得している。「いつもの」?もしかして小町はいつもここで休んでいるのだろうか。映姫が知ったら怒りそうだ。


と、思っていると、そのトンデモ少女、チルノが近寄ってきた。


先程、小町がやる気なさげに「最強」と言っていたが、その名は伊達じゃないかもしれない。下手したら殺られるかも……そう思ってると体は正直に動いて、後退りをした。

チルノはそれに気付くとぴたりと止まり、腰に手を当て高らかに笑いだした。


「はっはっは、わたしの「おーら」におじけついた!?だけど、なにもしないよ!あんしんして!」

少女ならではの笑顔を俺に見せてくれる。すると自然に俺の体から震えが消えた。何でだろう、少女の笑顔には嘘がないと不思議に感じ取れたのだ。


「あたいチルノ!このみずうみをまもってるんだ!」


なんと、向こうから自己紹介をされたうえに手まで出してくれた。


握手は友情を作る第一歩。俺は少し戸惑ったものの、最後はにっこりと笑いながら、差し出された手を握る。



「俺は北柳ひゅう。よろしくね。」


彼女の手はほんのりと冷たかった気がした。

 



――――――――――――
Extra.2
――――――――――――



「………ふぅ…。」


映姫はあれから仕事場に戻って作業を再開していた。

そして今、仕事に一区切りを入れ、小休憩を入れて肩の荷を降ろしている


そんな時に、映姫の脳裏に八雲紫の言葉が蘇ってきた


『私はただ、自分の無実と強い反応があったから様子を見にきたまでよ。』


“……八雲紫はそんなことを言っていましたね…”


ふぅ、と息を吐きながら映姫は紫の発言に何か引っかかる気がしてならなかった。


「……強い反応…それはひゅうがここに来たときの磁場の歪みだろうか……」


いや、その場合は私も気付くだろう、と小さく自分に突っ込む。


「……この周辺に異変が起きれば、八雲紫より私のほうがより早く気付くはずなのに……」


ん~、と頭をぽりぽりかく映姫、ひとたび思うとなかなか抜け出せないのが映姫の性格。その様子は相当悩んでいる。


「……もう一区切りついたら小町にでも連絡しますか。」


よし、と立ち上がると、映姫は肩をまわしながら仕事場に戻った。


――――――――――――
Extra.2 End
――――――――――――
 



俺はチルノと握手をした、したのだが。


チルノはいきなり後ろに飛び跳ね、俺と間合いを取る。


「――っ!」


チルノは俺と握手をした右手を押さえている。



「ち、チルノさん?」


俺はチルノに近寄ろうとした。もしかしたら痛くしちゃったのかもしれないし。


「こないで!!」


だけど、俺はチルノの大声に押されて、思わず足を止める。


「あんた、いったいなにものなの?」


さっきの笑顔とは正反対の目つきで俺を睨み付けている。


「ど、どうした、チルノ」


様子が変だと小町がチルノに近寄る。それでもチルノは俺から鋭い目を決して逸らさなかった。



「こまち、あれってほんとうににんげん?」


今でも襲い掛かってきそうな姿勢だ。俺の身体が再び震えだす。


「ど、どう見たって人間だ、外来人だ、だから落ち着け。」

「たしかめなきゃわからないよ!」


チルノが飛び出そうとしている。小町は必死に止めようとしているが、チルノは聞こうとしていない様子。


「う……っ。」


そんな時、俺はひどい目眩に襲われた。

これが、チルノという妖精の力なのだろうか。

今でもチルノの声は聞こえる。


聞こえるが今の俺には何を喋っているのかわからない。ただ、“声”がするということだけはわかる。


しばらくすると、目の前が真っ暗に何も見えなくなってしまった。



ここは―――


そうだ、あの夢の中だ――


暗くて寒い、あの―――


そう思っていると、すごく寒くなってきた。


そうか、俺は氷の妖精に襲われたのか。


氷の……ようせい……?


名前……何だっけ…


名前…船の……

船に一緒に乗ってた人は…誰……


なんだっけ……



俺ハ、ドコに……


「おやおや、またここに訪れるとは。」

 
―――――――――


俺は静かに目を覚ます。時間は午前5時。まだ起床時間には少し早い。


だけど、俺は目が覚めてしまった。いつも天井にぶつけるはずが、今日に限って何も起きない。


俺はゆっくり二段ベッドから降りる。栢山をなるべく起こさないように。


俺は、一人、床に座りながら、先ほどの夢を思い出すことに。


けど、なかなか思い出せない。暗く、寒いことしか覚えていない。


「俺……不思議な夢を見てたな……」


俺は一人でそんなことをぼやいていた。





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匿名読者
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