本当に盛大だった。
あんなに綺麗な桜は見たことはなかった。
思わず口を大きく開け、見とれてしまった。
「ありゃりゃ、また怪しく光っているね〜」
小町は俺が逃げないことを確認すると、手を離し、同じく桜を見つめている。
「えぇ…なんだか、綺麗…綺麗なんですけど、なんだか怪しい雰囲気を出していますよね。」
そうだ、俺の実家の桜もこんなに光ることはない。ましてや自発的などもっとありえない。そこにある桜は、桜であって本当は桜ではないのだろうか。
そんなことを思いつつ、俺は当初の目的を思い出す。
振り返り、今進んできた道を帰ろうとしたときだった。
『小町っ!!』
いきなりの怒声に思わず身を竦ませてしまう。
小町から小さく「きゃんっ」と聞こえたのは空耳だったろうか。
「あなたは今まで何処をほっつき歩いていたのですか?おかげでお仕事が山積みです!」
「ひぃ、す、すみませぇん」
俺は恐る恐る振り返る。
しかし、小町の目の前には小町より背の小さい、少し小柄な少女と呼べる女性だった。
その少女は、先ほどから小町にガミガミと説教じみたことばかりを言っている。一方小町はさっきからへこへことしてばかりだった。
「―――わかりましたね?今後は……おや、小町、あちらのお方は?」
と、話の矛先をこちらに向けてきた。少女は小さな塔婆で相手に失礼の無いよう、自分の口を隠しながら小町に問いただす。
まぁ、その会話も聞こえてちゃ意味もないんだが。
「あちらの男性は、川の中腹で迷子になっていたところをあたいが拾ってきました。」
人様を物のように言うな。と、少女から渇を入れられる小町。目の錯覚だったか、一瞬だけあの塔婆が長く見えた。
すると、その少女がこちらに歩いてきた。
「ふむ……悪霊…ではなさそうだし…」
また小さな塔婆で口を隠しながら俺を見て考え込む少女。
「小町よ、あなたは厄介なものを連れてきたのかもしれないわ」
はぁ、と小町は小さく相槌を打つ。
そんな厄介扱いされている俺は、今一番聞きたいことを口にした。
「あの、小野塚さん。この子はどういったお子さんなんでしょう?」
その後、小町は笑い出した。
――――――――――――
俺は、あの後、小町と一緒に塔婆で殴られ、今も二人で正座をしながら説教を受けている。
あの塔婆は意外とよくできていて、意外と堅く、たんこぶができてしまうほどだった。
「〜〜〜〜〜!!」
今は小町が怒られている。しかもものすごいペースだ。俺には聞き取れん。
こちらの少……いや、四季様。四季映姫・ヤマザナドゥ様は立派な閻魔の役目をなさっているのにもかかわらず、私めが多大な粗相を……
……と、いかん、なにやら変な方向に洗脳させそうになったが、気を取り直して、四季様の方へ耳を傾ける。
その二人の様子を見ていると、一方的に小町が怒られている。まぁ、それはそうなのだが。
「も、もうそのくらいにしてはいかがでしょうか。」
俺は恐る恐る尋ねてみる。
「あなたは少し黙ってなさい!大体あなたも―――!!」
やばい、怒りの矛先が俺に向いてしまった。これからまだ続くのかと思ったら、いきなり四季様がため息をしだした。
「……まったく、あなたにこんな事言ってもしょうがないか。私も初対面なのにきつく言い過ぎました。」
ふぅ、と一息つくと、憎悪のかけらもない、純粋な笑顔で話し始めた。
「では、自己紹介のほうを。」
俺は、小町から名前を聞いているが、ここは知らないふりをしてともに自己紹介をすます。
「―――ひゅう、ですか。おもしろい名前ですね。」
俺も最初はヤマザナドゥと聞いてどんな名前だ。と思っていたが、じつはここの意味で役職の表しているらしい。
ともあれ、俺は四季様と握手することに。
「その四季様はやめなさい。あなたは仮にも外来人。私とは何も関係ないのですから、気軽に『シキ』とでもお呼びください」
それでは、ありがたく「四季さん」と呼ばさせていただきます。
「それで、おそらく小町からここの事について詳しく話されたと思いますが。」
「え、と、特に何も……」
すると、映姫は笑顔になりながら、「小町、後で説教です」と逃げようとしてた小町に釘を刺す。その笑顔が少し恐かった。
「はぁ…では、簡単に説明しますね。ここは『幻想郷』といい、我々のような者が住まうちょっとした不思議な国なのです。」
と、言われても、あまり実感が湧かない。目の前に閻魔様がいると言うのならば、俺のイメージした閻魔様もとい閻魔様の住まう場所がこんなにも綺麗な場所ではないし、小町が死神(まだよく知らないけど)なのであれば、ここも俺のイメージとした死神が住みそうな場所ではなかったから。
と、考えていることが顔に出ていたらしく、「貧困なイメージですね」と映姫に突っ込まれる。
「そんなことより、あなたの状態を説明すべきですね。何より自分が知りたいはずです。」
俺は、そう言われ息を飲んだ。
「安心してください、あなたはまだ死んではいません。私の目が保障します。」
は……
よかった……まだ死んではないようだ…
安堵の息を漏らしていると、小町が笑顔で「よかったね〜」といかにも知っていたかのように笑っている。ほんとに人騒がせな。
「まぁ、簡単に言えばあなたは『生霊』です。どうやってここに訪れたのかは知りませんが、大体は予想は付きます」
「いき…りょう、ですか。」
これまた厄介なことになったもんだ。実感が湧いてこない次は生霊ですか。ますます実感が湧かない。
「………」
そう悩んでいると、映姫はなにやら俺の胸を見ている。いったい俺の胸になにがあるのだろう。俺も吊られて見てしまう。が、そこにはただの留置場のつなぎを着た俺の姿しかなかった。
「あの、何を……」
「ちょっと両手を合わせて前に出してくれませんか?」
俺は言われたとおりに両手を目の前に差し出す。
すると映姫は、手に持っている塔婆で俺の手首を撫で始めた。
いったい何をしているのか、そう思っていたときだった。
「!!」
急に手首が重くなり、俺は思わず倒れてしまった。
その手首の重さは尋常じゃなく、本当に叩きつけられたように俺は倒れてしまった。
「っな…」
「すみません、ちょっとばかり悪戯をさせてもらいました。どれ、目に見えるようにしてあげましょう。」
すると再び、俺の手首付近を塔婆で触れる。すると、だんだんと浮かび上がったきたのは、俺の手首にまとわりつくような手枷だった。
「こ、これは?」
これを見ていると、留置場に入る時のことを思い出しそうになる。
この手枷は見た目通り頑丈で、デザイン的に、何かの石と石を混ざり合わせたような色をしていて、枷としては十分に発揮できる代物だ。
「あなたの見たとおりの品物です。これから言うことを守ったのならばその手枷を外してあげましょう。」
映姫はお得意の塔婆で口を隠す仕草をした。
そして、真剣な目で俺にこう言ってきた。
『自分を見失わないことと自分を理解すること。これが今の貴方が積める善行よ。』
俺は、衝撃を受けた。それと同時に、あぁ、この人は本当に閻魔様なんだろうな、と思った。
その言葉は、深く、俺の心に突き刺さり、決して忘れることはないだろう。
「っとまぁ、こんなところです。その枷が取れるまでしばらくはこの幻想郷を楽しんでください。」
と、先ほどの真剣な眼差しは消えた途端、急に笑顔になった。
「小町、貴方にも任務を下します。これからこちらの北柳ひゅうと共に幻想郷の異変、霊魂を回収してきなさい。」
小町は「えー」といってるが、いやいやながらも、素直に行動しようとしている。実はしっかり者なのかも。
「ひゅうさん。その枷は自分の意思で軽くなったり重くなったりします。」
「その枷は私の言った助言を充たしているとだんだんと軽なってきます。助言を達成できたとき、その枷を外してあげましょう。」
フムフと聞いていると手枷は重くなり、地面に叩きつけられてしまった。
「ははは、油断していると手首が取れてしまうよ。」
本当にそう思うくらいに今は尋常になく重い。
「それは、気持ちが不安定になると重くなるようにしてある。」
なるほど、平常心を保っていればこの手枷は軽くなってくれるのか。
理解した俺は大きく深呼吸をする。すると、
「あらぁー!?」
再び地面に。今度はなぜだ。
「心は嘘はつけない。無理に落ち着かせようとしないことね。」
映姫はくすくすと笑い、何処かの道化師のようにならないようにな、とちょっと楽しそうにしていた。
――――――――――――
俺は映姫に見送られながら、小町と幻想郷の人里に向かうことに。
そこに行き、ここに早くなれることをお勧めされた。
「今は重くない?」
小町は俺の手枷を見て、心配するかのように尋ねてきた。
「あぁ、今は重くない。それよりか今は石でできたとは思わせないくらいに軽いよ。」
さっきの地面に叩きつけられるような、あんな桁外れの重さとは比べ物にならないくらいに軽い。
「というか、さすがに不便だろう。」
まぁ、使い勝手はよくない。それは手錠みたいなものだからな。さすがに後ろ手だったらきつかった。
「まぁね、でもこの不便を超えるのも、俺の使命なんだろうから、文句は言えないよ。」
そう、俺は映姫に『自分自身を探すように』と言われた。いったい何のことだか俺には理解しかねる。
第一、自分自身をよく知らないのか、俺は。そんなことを思っていると、また手枷がずしりと重くなる。叩きつけられるほどではないが。行動にはいくつかの不便が生まれるだろう。
「そうか。しっかし、映姫様を子ども扱いするとは……はは、思い出しただけでもおもしろい。」
小町は、ケラケラと笑い始める。俺も、あまに人を見かけで判断しないようにしたい。
「まぁ、間違えるのも仕方ないか。実際、あたいより背も低いし、第一、ひゅうが大きすぎる」
そう、俺は人より少し背が高いのだ。年20にして身長198cm。特に太っているわけでもないが、まだまだ身長は伸び続ける。
俺と栢山はしょっちゅうベッドや天井に頭をぶつける。背が高いのも不便なものだ。
ちなみに、栢山は185cm。初対面で「俺よりでかいな」といわれたのをまだ覚えている。
「いいよな、身長高くて。」
よく言われるが、実際、背が高くていいことが今までひとつもない。
よく女子高生に「でかーい」と言われてきたが、ただそれだけ。スポーツを勝手にバレーかバスケにされやすいが。列記とした野球部。外野という微妙な守備位置で俺は青春の汗を流してきた。
「そりゃどうも。」
俺は適当な相槌をいれる。
こうしてのんびりと人里を目指して行くのも悪くない。
――――――――――――
Extra.1
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映姫はヒュウと小町を見送った後、自分も仕事場に戻ろうとしていた時だった。
「そこにいるのでしょう。出てきなさい、八雲紫」
誰もいないその場所で映姫は誰かに問いかけるように言葉を放った。
「あらあら、気付くとは以外ね、映姫」
「気安く呼ばないでください。それに、わざと気付かせる用に仕組んだくせに」
すると、空間から声が聞こえ、次の瞬間、空間に亀裂が入り、だんだんとその亀裂は広がっていく。
その亀裂が、優に人の出入りが可能になったとき、その空間から人が身を乗り出してきた。
「あなたは、私のことが苦手だったのでは?」
「まぁ、そんなときもあったわね。でも、もうそれはおしまい。映姫が追わないのであれば、私も逃げたりしないわ。」
「……まだ許してはないんですけどね。」
映姫は眉をしかめさせる。
「――あの子、私は呼んでないわよ。」
「――何?」
険悪なムードを断ち切る第一声がそれだった。
「あの子とは……ひゅうですか?」
「そうよ、あの子は自分からここを訪れたみたい。」
それは意外、と顔に表す映姫。紫はあきれたようにため息をこぼす。
「珍しいわよね、生霊としてここにくるのは。半霊としては一人要るけど、外来人ではめったにないもの。」
ううむ、と声をうならす映姫。
「ま、そちらの部下のミスでしょうけど。」
もはやぐぅの言葉しか出ない。
「からかいにきたのですか?」
映姫の言葉に力がこもる。塔婆を握る手にの力が入る。
「まさか、そんな面倒ことはしないわ。私はただ、自分の無実と強い反応があったから様子を見にきたまでよ。」
空間の中で、扇を広げ、口を隠しながら笑う紫。
「なんだったら、協力してあげてもいいわよ。さまざまな面で、ね。とりあえず、今回はここまでにしとくわ」
すると、紫は空間の中に入り込み、その亀裂を閉じてしまった。
映姫は、一人悩んでいた。
「……まぁ、悩んでいても仕方がない。部下の失態は上司の失態。私がカバーしなくては。」
映姫は仕事場へと戻っていった。
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Extra.1 End
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