暗い……
ここは何処だ……
寒くて暗い…
回りも見えなければ自分の身体さえ見えない…
まるで意識だけが起きているようだ……
暗い…寒い…
歩いても歩いても暗くて先も見えない
そのうち歩いているのかさえわからなくなってくる。
暗い…寒い…恐い…
あぁ、もう眠ってしまいたい…
眠れば…この暗闇から抜け出せるはず…
でも……あれ……?
確か……俺は…寝てたはず…
これは……夢……?
ユ……メ…なの…か?
「北柳!」
俺は勢いよく飛び起きた。おかげで天井に頭をぶつけた。
ここは留置場。ごく普通な留置場でなんら変わりはないと思う。
まぁ、俺は留置場なんて興味がないし、ドラマとかも観ないので実際中身がどういったものかわかるはずもなかった
そして、俺を起こしてくれたのが下のベッドで寝ている栢山野木という、俺より一回りでかい男だった。
「ヤナ……そろそろ集合の時間だ。」
「あ、あぁ、わかった、すぐに着替えよう……」
俺は狭い部屋の中に置かれた天井ぎりぎりの二段ベッドの上から下りることにした
俺は北柳ひゅう。本来の名前としてはひゅうは漢字で彪と書くらしいのだが、父が「これではヒョウとも呼べる、いっそのことひらがなにしてしまえ」と、小学生の頃から名前の欄には「ひゅう」と書いていた。
そんな俺が、何でこんなところにいるのかと言うと……
俺は…
「ヤナ、ボーっとしてると朝食を取り損ねるぞ」
と、俺は思い耽っていると目の前の栢山が朝食の鰯をむさぼりながら俺に注意をしてきた。
「あ、あぁ、そうだな……」
「どうした、食が進まないのか?なら俺が食ってやる。」
細い目で俺の鰯を狙っている栢山。
俺は冷静にまず味噌汁で喉を潤すことに。
「誰がやるもんかこの大食い、人のを勝手に取るな。あとヤナって略すな」
栢山は小さく舌打ちをするとちまちまとお茶碗の中身をむさぼる。
ここの留置場は、ほかの人が言うには一番いい留置場らしい。なぜだかわからないが、一番まともなのは食事らしい。
だが、こう言っては悪いが、なかなか居心地がいい。それに、留置場ではもっとなんか作業とかする場所かと思ったら何もしないし、ほとんど自由なのだ。
朝食を取り終えると、グループに分けられそのグループごとに各場所を清掃。
それを終えると指定した場所で自由時間。
昼食を取り終えると室内か外で自由行動。
まるで、小学生の頃を思い出す。
なんて自由なんだ。逆に遠慮してしまうくらいだ。
本来なら、こんな自由は許されないはずなのに、なぜこんなに自由なのか、それには理由がある。
ここに拘束(?)されている容疑者と呼ばれる人たちは、弱い罪に問われている人たちばかりなのだ。
もともとは老人のための優しい設計なのだが、受領がなく、やむなく若い罪人を入れることにしたのである。
噂によると、なんだか怪しげな研究をしているとかしてないとか。
弱い罪といえば、さっき話した栢山は、何でも満員電車の中で女性の身体を触ったか否やで罪を問われているらしい。
女性のほうは完璧に触ったと主張しており、栢山は
「もしこの大きな身体があなたの一部を触ったとしたらそれは申し訳ない。あなたが不愉快と思うのならばこの身をもって償おう。」
と、自ら罪を背負うと言ってきたのだ。
「なに、この身体はいつも不便だが、女性に悪いことしたのだ。それなりの対応をしなければ」
と、なかなかかっこいいことを言っているが、どうみてもいい人過ぎる。
むしろバカなのかもしれない
そういえば、今朝俺はなぜあんな夢を見たのだろうか……
暗かった…
あんな夢はもう見たくない。
見ると……
そういえば……今朝なんでここに入れられたのか思い出せてなかったな……
何で……俺はここに入れられたのだろう……
俺は……
「おい。」
「へ?」
俺はまたもや栢山に妨害されてしまう「もう寮に入る時間だ。入り口前で呆けてると蹴られるぞ。」
俺は栢山に言われて辺りを見回す。
どうやら俺はいつの間にか自由時間を無駄に過ごし、門限の時間となってしまっていた。
「それとも、何か不思議な夢でも見ていたのか?空を眺めて何を思っていた。」
「別に。てか、よく俺の目線がわかったな」
俺はさらりと受け流す。ちなみに、俺の前髪はちょうど目にかかるくらいに伸びていた。時々目に入って痛いときもある。
特には気にしていないが、俺はこのままのスタイルを保とうと思っている。
「そういったものは、目線でなくてもわかるのさ。心というものは、常に表れているのだからな。」
あぁ、栢山よ。何処でそんなかっこいいことを覚えてくれるのだろうか。
そんなこんなで簡単に一日が終わろうとしている。
そして、俺はベッドで横になると今朝のことをまた思いだす。
「なんで……俺は捕まったのだろうか……」
知りたい……
知りたいけど……
なんだか知ってはいけないような気がする……
『……寝よう。』
寝れば忘れてくれる。
そう願い、俺は目蓋を閉じた。
そして、
また、
この暗闇とやってきた、
相変わらず暗い、
何も見えない、
だが、昨日と違うのは、
ここは暖かい、
日向ぼっこをしている気分だ、
心が洗われる……
あぁ、ここは暖かい……
昨日とは大違いだ。
昨日は本当に凍えるような寒さだった
すると、俺の背中に冷気が触れた
その途端、昨日の寒さが戻ってきた
寒い……
暗い……
コワイ……
コワイのはいやだ……
すると、目の前に光が見えてきた。
その光は見るからに温かみのある光だった。
その光に、追いつこうと俺は走り出した。
走った、走り続けた。
だが、一向に光に追いつかない。
寒い
暗い
コワイ
俺は走った感覚しかなく、実際は走っていなかったのかもしれない。
コワイ
コワ、イ
俺は、光を見続けた。
後ろを向くのは、いやだ。
もしかしたら光がなくなってしまうかもしれないから。
コ、ワ、イ
寒くて、視界がぼやけてきた。
目の前の光がだんだんと小さくなってしまう。
いやだ
そう思い、俺は懸命に手を伸ばし始めた。
イヤダ
光は遠のいていくばかり、俺の手が届くはずもないのに俺は手を伸ばし続けた。
イヤ、
もしかしたら、もともと、俺には手がないのかもしれない。それなのに、俺は手を伸ばし続けた。
イ、ヤ、
そんな時、指先に光を感じた。
それと同時に指先から俺の指と思える手がだんだんと現れてきたのだ。
これで、俺はやっと自分の姿が見えると安心した。
そんなときだった。
「おいおい、おまえさん。それ以上行くと戻ってこられないよ。」
俺の意識は完璧に戻った。
ちゃんと上を向けて寝ている。
それに、ちゃんと船の上に寝ているし……
ん?
「ぅえ!?」
俺は思わず飛び起きた。
だが、いつもの天井はなく、あるのは俺を乗せた小船一隻と辺り一面に広がった濃霧であった。
確かに、俺はベッドの上で寝ていたはず……
そう思い、辺りを見回してもベッドどころか栢山さえもいない
本当に俺一人なのだ。
「え…、ここは…俺は…」
これは、夢?
「……いてて。」
ためしに頬をつねってみる。
確かに痛い。こんなもので夢かどうか見極めるのは難しいのだが。
「夢……じゃないのかな…」
「まぁ、夢じゃないんだけどね」
声がする。
俺しか乗っていなかった小船にもう一人乗っていた。
その子は、見るからに大きな鎌を持って足を組み、空を眺めている。
「で、あたいは今からおまえさんの道案内をしてやるわけなんだが」
俺は、あの夢のときと同じ寒気を感じた。
「ここは『三途の川』。さて、おまえさんは何処に行くんだい?」
目の前の女の子が恐ろしいことを言い出した。
。
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