ⅩⅢ.子供達の朝 ★24
 
 次の日の朝。

 年明けも間近にせまり、今週末には某神の子聖誕祭が行われるとかれないとか。そんな季節の日本は勿論寒い。
 今朝は特に冷え込んで、今冬一番の寒さだとか何とか。毎回更新されるその記録はさながら『全米ナンバーワンヒット!』だとか銘打たれてるハリウッド映画の如し。スターウォーズを越えた!って、いったい今あの星戦争は上から何番目に位置しているのだろう。

「あ、桃枝さん」

 そんな登校路。電車を降りたところで彼女に出くわした。

「あら、仁科さん。早いのね?」

 細く息を吐き出しながら振り返る桃枝さんの隣に駆け寄る。
 おはようと挨拶を交わして駅のロータリーへと続く階段に足をかけた。

「……あなた、零と一緒にいるところ見られちゃうわよ?いいの?」

 冷ややかな声は風に舞いながら冷気と踊っている。

「………いいよ。決めたんだ」

 もういいんだ。私は逃げちゃダメだ。

 と、言いつつもその決断は既にエスケープ的結末を描いているんだけれども、だからこそ避けちゃいけないこともある。

「橘さん達とは、もういいんだ…」

 本当の自分を晒せる訳じゃない。でも、自分らしさを探さなきゃ。
 彼女達の影に隠れていても私は暗い背景のまま。
 そんなの、やっぱり嫌なんだ。

 それがどれだけ大きな決断でどれだけの勇気と覚悟が必要だったのか、わかってもらおうなんて傲慢さは持ち合わせていないけれど、ただ、それだけの価値があると思う。

 桃枝さんにはそれだけの輝きがある。

「…………そぅ…」

 素っ気ない返事だけれども、俯いた彼女は笑っているように見えた。なんてこれこそ自意識過剰かな?
 でも、それは私を少しだけ強くしてくれた。
 寒さからか恐怖からか、震える体をギュッと抑え込んで深呼吸。

「寒いよね。朝起きるのが辛いよ」

 いつもよりも少し早く起きた今朝を塗りつぶして微笑んでみせた。
 ひきつってないかな?声が震えてないかな?あんまり眠れなかったからくまが出来ていないだろうか?きっとぎこちない笑顔だろうと恥ずかしくなった。

「零は冬好きよ。寒いけどその分空気が澄んでいる気がするし、息が白くなったり綺麗な星空を見ることが出来れば」

 逡巡の間。

「生きている実感が湧くもの」

 何気無く零れた言葉にはどこか憂いを帯びていて、吐き出された言の葉は何か潤っている様だった。

 学校までの道のりを徒然と連なる会話で埋めながら、私の緊張は次第にビートを速めていく。
 橘さんに会ったら言うんだ……あぁ、私どうなっちゃうんだろ?
 ひょっとしたら立ち直れなくなるほどの傷を負うかも知れない。死んでしまうかもしれない………駄目だ、考えちゃ。乗り越えた向こうを見ろ。その壁に描かれた模様なんて眺めている暇はない。

「桃枝さん、学校ではあんまり喋らないよね?昨日私にしてくれたみたいに人に話しかけたりとかしないの?」

 プレッシャーを無視する為に私は口を開き続ける。

「だから、昨日は機嫌が良かったの。どうしてかですって?それはね…」

「携帯電話でしょ?言ってたじゃん」

 開いた鞄をまた閉じて、唇を尖らせながらじとっとした視線を此方に送る。それを振り払うように話を戻した。

「で、でもそんなに喜んでるって、すごく嬉しかったってことだよね?」

「まぁね」

 嫌味っぽく口元を歪めるのが目に映って、思わず私は

「意外に子供っぽいところもあるんだね」

と、意地悪を言った。

「なーに言ってるの?携帯電話を持つなんて、大人の証拠以外何物でもないわ」

 楽しそうに鼻を鳴らしながら背後で手を組む姿はどことなく幻想的で、言葉を失うばかりの私はそうだね、とだけ呟いた。

 楽しい時間はあっと言う間だ。灰色の校舎がもう目の前。
 まだ生徒の少ない校門をくぐる。

 堅く結んでいた心のはじっこをもっと強く握りしめて、手の平の汗を拭って、また大きく息を吸い込んで、長く長い一日が今、始まった。

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匿名読者
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