16日――
今日も俺はいつもの時間に駐輪場に自転車を止める。
しっかりと鍵をかけ、キーをバックの小さなポケットに入れる。
まだ誰もいない廊下を歩く。先生はいると思うが教室には誰もいない。
静かな校舎。耳を澄ますと朝練している部活動の音が聞こえてくる。
だけど俺はミュージックプレイヤーに繋がっているイヤーホンを付けているのでその音は全く聞こえない。
スタスタと歩く。1年生は4階建ての校舎の最上階まで歩かなくていけない。もちろん階段でだ。
先生が開けてくれたのかわからないが、階段の中腹の窓が開いている。
その窓から優しげな涼しい風が入ってくる。ふわりと髪をなぞる風は一瞬にして通り過ぎて行く。
それでも俺は立ち止まらずズンズンと進んで行く。
最上階についたとき、歩くペースを緩め、心拍を落ち着かせる。
ゆっくりと教室まで歩き、教室のドアを開ける。
「―――あら?」
不意を衝かれた。俺が一番だと思っていたのに先客がいたようだ。
彼女はこのクラスの委員長ということしか俺は知らない。
「九条くん、朝早いのね。」
むこうが何かをしゃべっているみたいだ。急いでイヤーホンを取る。
「――お、おはよう…。」
「ん、おはよう、九条くん。」
丁寧に挨拶をしてくれる。それに俺の名前を知っている。俺は彼女の名前を知らないのに。
彼女は教台でプリントをまとめているようだ。
そういえば彼女は学級委員にも立候補されていたような。
「いつもこんなに早いの? 九条くん。」
突然質問されてしまう。女子か話しかけられること自体が珍しいのであたふたしてしまう。
「い、一応ね。」
「へぇ、朝練――な訳ないわね。なんでこんな早いの?」
質問攻めにあってしまう。正直言って面倒くさい。楽しい気持ちというものが会話ではあまり感じられない。
笑いあえたりしたことはあるが、正直そんなに楽しくはなかった。
「……別に。」
そうして最低な答えを返してしまう。俺はいつもこういうので空気を淀ましてしまう。
「べ、別にって……。」
本当はこんなことはしたくない。俺もこの空気は嫌だ。なのにしてしてしまう自分の性格が時頼嫌になる。
「……なにか特別な用事があるんだね。」
彼女なりの答えを導いているが、そんな答えとは全く違う。
俺は人ごみが嫌だから朝早くきている。
けどそんなことを目の前に居る彼女に言えるわけもなく。
「宿題だったら私のノートを見せてあげるからね。気軽に声をかけてね。」
彼女には変な心配をさせてしまったようだ。
だが余計なおせっかいだ。宿題はやってきてはいないが、ノートを見せてって自己申告することは相手に弱さを見せているのと同じだと思う。
俺は返事を濁すと彼女は何も言わずに廊下に出ていこうとしていた。
その教室を出る際にだった。
「――ねぇ、九条くん。明日も……この時間?」
「え?」
眼をきょとんとしてしまった。
「あ、ううん、やっぱり気にしないで……じゃあね。」
そう言って彼女は教室を出て行った。
そんな夏休み前の16日の朝でした。
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