チッ、ピピピ……ピピピ……
男「もう起きてますよー」
カチッ
男「日曜日にこんな早く起きたのって久しぶりだな。さて、朝飯何にするかな~と……。いやいや、手作り弁当が待ってるんだ。他のもので腹を膨らませたくないな」
男「よし、朝は抜くか! 少しだけ我慢しような、俺の腹」
男「靴汚れてない、服装と髪型も……多分これで大丈夫だろ」
男「えーと今日の天気は……よしよし、雨の心配は無さそうだから傘はいらないな」
男「ちょっと早いけど……そろそろ行くか!」
ガチャッ
男「いい天気だな~。何だか今日は全てが上手くいく気がしてきたぞ!」
ガヤガヤ
男「まだ約束の時間より10分早いな。ま、あっという間だろ」
男「もしかして、もう来てるとか……」
キョロキョロ
男「うん、まだみたいだな……」
風邪「わっ!」
男「ぎゃあ!」
男「びっくりした~……」
クルリ
男「……」
風邪「ふふふっ、こんにちは」
男「……かわ」
風邪「川?」
男「(……可愛い! 何だ何だ、今一瞬心臓止まりかけたぞ!? かと思いきや、今はバクバク鳴ってるし……)」
風邪「?」
男「(いつもと少し違う格好だからなのか? よく分からないけど落ちつけ俺……!)」
風邪「男さん?」
男「は、はい!?」
風邪「あの……びっくりさせちゃいましたか?」
男「い、いえいえ全然!」
風邪「良かった……。男さんの後ろ姿が見えたから嬉しくなってつい驚かせちゃったんです。すいません」
男「(後ろ姿が見えたから嬉しくなって……か。何気ない一言で何か幸せ……)大丈夫ですよ。それより、今日いい天気になって良かったですよね」
風邪「そうですね!」
男「(その笑顔で幸せのダブルパンチ……。あーもう、今日は間違いなくいい1日になるぞ)じゃあ行きますか」
風邪「はい!」
ガタンガタン……
男「電車混んでますね」
風邪「日曜日ですから皆さんどこかに出掛けるんですよ。今日は絶好のお出かけ日和ですから」
男「そうですね。あ、降りる駅なんですけど……アニヲタシーワールドの最寄り駅から一つ手前で降りませんか?」
風邪「一つ手前で?」
男「はい。近くに公園があるんですよ。今はきっと桜が見頃だから、そこでお昼食べようかと」
風邪「いいですね。……うん、すごくいいと思います!」
男「良かった。ところで……お弁当何ですか?」
風邪「見てからのお楽しみですよ、男さん」
男「う~ん、気になるなあ」
風邪「ふふ」
男「(あ~……。弁当の事考えたら腹へってきた……)」
ガタンガタン
男「……」
風邪「……?」
男「(ヤバ……、酔ったかもしれないぞ。普段電車で酔う事なんてないから油断してた……)」
チラ
男「(降りる駅まであと少しか……。それくらいなら我慢できるな)」
風邪「男さん?」
男「は、はい?」
風邪「……大丈夫ですか? 何だか体調が悪いような気がするんですけど……」
男「!?(鋭い……。でも、心配かける訳にはいかないな)そう見えますか? 水族館なんて久しぶりだから緊張してるんです」
風邪「そんな、緊張だなんて。楽しく見て回りましょう」
男「そうですね。いや、楽しみだな」
風邪「ええ」
男「(頼む、治ってくれ……)」
風邪「……」
男「(やっぱり、朝何も食べなかったのが駄目だったんだろうな……。早く振動のない所に行って新鮮な空気を吸いたい……)」
男「(胃の奥から何かがせり上がってくる感覚が気持ち悪い……。早く……早く……)」
風邪「……さん……男さん?」
男「は、はい!」
風邪「この駅で降りるんでしたよね?」
男「!?(いつの間にか着いてた……!)ここです! 降りましょう!」
風邪「わわ、急がないと!」
プシュー
風邪「ふう、何とか降りれましたね」
男「……そ、そうですね。さて公園に行きますか」
風邪「ええ、桜楽しみです」
男「(歩いてたらそのうちに治るよな……)」
風邪「うわあ……っ。綺麗! すごく綺麗です!」
男「そう……ですね(彼女の笑顔と景色に癒されても、まだ吐き気がおさまらない……)」
風邪「……」
男「(桜が一番綺麗なのって、あの高くなってる所だよな……。無理無理、階段とか何段あるんだよ。行きたくない……)」
男「(……でも行かなきゃいけないだろ。せっかく弁当作ってきてくれたんだから、せめて一番綺麗な場所を用意したい……。よし……!)」
風邪「あの……」
男「あ、はい」
風邪「お弁当……あの高い所で食べるんですか?」
男「はい。桜が一番綺麗なのはあそこらしいんで」
風邪「すぐそこのベンチじゃ駄目でしょうか?」
男「ベンチ……そこにあるやつですか?」
風邪「ええ。後ろに桜の木がありますから、充分綺麗だと思うんですけど……」
男「そうですねえ……」
風邪「実は、今日履き慣れない靴を選んできてしまったせいで少し足が痛いんです。できれば階段は避けたいな……と」
男「えっ!? そういう事なら階段は避けた方がいいですね(助かった……)」
風邪「ありがとうございます」
男「いえいえ、ところで足は大丈夫ですか?」
風邪「普通に歩く分にはあまり問題なさそうなので、大丈夫ですよ」
男「痛くなったら言って下さいね。……じゃあお昼にしますか」
風邪「はい。やっぱりここでも充分綺麗ですね」
男「そうですね……(座っていれば体調も落ち着くかな)横、失礼します」
風邪「どうぞ」
男「よいしょ……」
風邪「男さん」
男「はい?」
風邪「ちょっと失礼します」
グイッ!
男「っ……!?」
ボスッ
男「……(腕を引っ張られて急に視界が傾いて……。今の状態、これは……ひ、膝枕ぁ!?)」
男「あ、あのっ……むぐ!?(口に彼女の手が……。抵抗するなって事か?)」
コクコク
男「……ぷはあ」
風邪「男さん、本当は電車に酔っていましたよね?」
男「うっ……。ち、違います」
風邪「あら? じゃあ私がこのまま男さんの頭を掴んで、ガクンガクン揺らしても?」
男「……!(そんな事されたら絶対吐く!)…………もう観念した方がいいですかね?」
風邪「ふふ、早く喋るのが吉ですよ」
男「……すいません。本当はメチャクチャ酔ってました」
風邪「正直で宜しい」
男「すいません。あの……俺が酔ってる事いつから気づいてたんですか?」
風邪「ナイショです。まあ、だいぶ前から気づいてましたけどね」
男「ええ!?」
風邪「……でも、気づいていたけど言えませんでした。男さんは私の為に無理してくれてるんだって分かったから……」
男「(あああ、全部バレてら……)」
風邪「それなら私はその思いを察するべきだと考えたんですけど……、顔色が悪い時でも私に笑いかけてくれる男さんを見ているうちに気づいたんです。男さんが無理をしてまで私を大切にしてくれたのと同じくらい、私にとっても男さんが大切なんだと」
男「…………心配かけてすいませんでした」
風邪「男さんが倒れたりしなくて本当に良かった。今度はちゃんと話して下さいね」
男「約束します」
風邪「はい。そのまましばらく休んで下さい。気分が良くなったらお弁当にしましょう」
男「分かりました」
男「……」
サアッ……
男「(風が…………。ん? 顔の上に何か乗ったな……。瞼が重くて目が開けられないから確認できん……)」
男「(虫……? 何だかくすぐったくて落ち着かないなあ)」
スッ
男「(温かい……これは指先が触れたのかな。あ、顔の上の物を取ってくれたのか)」
男「(これで安心してもう一回寝れる……)」
男「……」
男「(もう一回……? 俺寝てたのか!!?膝枕してもらってる状態のままで!?? うわあああ……! 軽く目を閉じただけだったのに完全に意識が落ちてた……)」
男「(えーと……。とりあえず少しだけ目を開けて周りの状況の確認を……)」
パチリ……
男「……!」
男「(何か、改めて距離の近さに驚く……と言うかドキドキするな。……やっぱり可愛いし綺麗な人だよなあ。目元は優しげで、口元も緩く微笑んでる感じで……)」
男「(ん? 何か指で摘んでる……。桜の花びら?)」
男「(ああ、そうか。今さっき俺の顔に乗っていたのがこれだったのか)」
ふっ
男「(おお、桜の花びらが吹かれて高く舞い上がった……。はは、すごく嬉しそうな表情してる)」
男「(何か……幸せだなあ)」
スッ
風邪「あ」
男「(うお! 目が合った!)お、おはようございます」
風邪「おはようございます」
男「すいません……俺、思いっきり寝てましたね」
風邪「いえいえ。気分はいかがですか?」
男「おかげで凄くスッキリしました」
風邪「良かった……」
男「弁当食べるの遅くなってしまいましたね」
風邪「つまみ食いして待ってましたから問題ないです」
男「うえ!?」
風邪「嘘です」
男「ぷっ……ははは」
風邪「さあ、お弁当にしましょうか。お弁当なんて作るの初めてだから自信ないんですけど……」
パカッ
男「おおお!(おにぎりに唐揚げ、それにふわっとした卵焼き……エビフライ……)めちゃくちゃ美味しそうですよ!」
風邪「本当ですか? 良かった……。どうぞ食べて下さい」
男「いただきます!」
バクッ
男「…………」
風邪「お、男さん?」
男「こんなに美味しい弁当を作ってきてくれて有難うございます……!」
風邪「もう、急に黙ってしまうからびっくりしました。……ふふっ、どういたしまして」
男「ふー……。ごちそうさまでした」
風邪「あ、まだデザートもあるんですけど……。いかかですか?」
コトン
男「デザート?」
風邪「ええ。さて中身はなんでしょうか」
男「うーん(デザート……果物……。あ、まさか!)」
バッ!
男「はいはい!」
風邪「男さんどうぞ」
男「リンゴだ! しかもウサギのやつ!」
風邪「それで間違いありませんね……」
男「もちろん!」
風邪「では……実際に開けてみましょう!」
パッ!
男「!? オレンジ……?」
風邪「ハズレでしたー。はい、どうぞ」
男「あ、どうも……(二人の間で果物と言ったら、ウサギリンゴが出てくると思ったんだけどな……)」
風邪「オレンジお嫌いでしたか?」
男「あ、いえ大丈夫です。ただ……」
風邪「ただ?」
男「今までの思い出から、ウサギリンゴに間違いないと確信していたので……」
風邪「私も、思い出の果物と言われたらそれを答えますよ」
男「え? じゃあどうして今日はオレンジを?」
風邪「……」
男「……?」
風邪「えっと……。やっぱり、リンゴのウサギは男さんに剥いてもらうのが一番嬉しいので……」
男「(え……?)」
風邪「それ以外は食べたくないなあと……」
男「(照れてる……? でもって、ウサギリンゴは俺の剥いたやつに限ると…………。うわあああ! 何かもう嬉しいし、可愛いすぎる!)」
風邪「ごめんなさい、何だか訳の分からない事を言ってしまって」
男「全然! そういう事ならむしろ大歓迎と言いますか……。じ、じゃあいただきま~す!」
風邪「沢山食べて下さいね。……でも私、嬉しかったです」
男「へ?」
風邪「男さんが、リンゴのウサギと即答してくれて……嬉しかったです」
男「は……はは……(むしろ、それ以外に選択肢が存在していなかったと言うか……)」
男「改めてごちそうさまでした。うう、胃袋がパンパンだ……」
風邪「えっ……。第二のデザートがあるんですけど、もう入りませんか?」
男「(マジで!?)あ、いやジャンプして胃袋に隙間を作れば……」
風邪「……」
ニコニコ
男「……ん? その笑顔まさか……」
風邪「ふふ、また嘘でした。すいません、楽しくてつい」
男「もー。本気でジャンプする所でしたよ(少しはしゃぐ姿のなんと可愛い事か……)」
風邪「じゃあ行きますか」
男「そうですね。よいしょっ……! あ~、くつろぎまくったから気分爽快だ」
風邪「ええ。あら……? 男さん、少し止まって頂いて宜しいですか?」
男「はい」
風邪「髪が少しハネてますよ」
男「うえっ!? ど、どこですか?」
風邪「右の……ああ! 大丈夫です、男さんから見た右ですから」
男「この辺ですか?」
風邪「う~ん、もう少し後ろ……。ちょっと失礼しますね」
スッ 風邪「……」
プルプル
風邪「ん……っ! んん……」
男「すいません、しゃがみますね」
風邪「…………はい」
男「(可愛かった……)」
パッパッ
風邪「これで少しは目立たなく……なったかしら」
男「ありがとうございます」
風邪「いえいえ。…………原因は多分私なので」
男「?」
風邪「すいません。男さんが眠っている間、髪を撫でたりしていたんです……」
男「!?(な、何だってー!)」
風邪「黒髪が太陽の光を集めて暖かくなっていたのでつい魔が差して……。ごめんなさい」
男「あ……いや……。あの~、俺……その時何してました?」
風邪「えっ? 寝ていたみたいでしたけど」
男「(やっぱりー! 俺のアホ! 何で頭撫でられて寝てるんだよ! ああ、意識がある時に頭を撫でられたかった……)」
風邪「(すごく落ち込んでる?)あの……」
男「ん? あ、違うんです。それとはまた違う別件で落ち込んでいるだけなので気にしないで下さい」
風邪「(別件??)」
男「ささ、行きましょう」
風邪「でも……今さっきの男さんの落ち込みようは……」
男「う!(起きてる時に頭を撫でてもらえなかったから落ち込んでるなんて言える訳ない……)えーと……」
風邪「?」
男「(言い訳の神よ……! どうか俺にアイディアを……)」
風邪「まさか、男さん……」
男「!?(ぎゃああ! 待って待って! まだ神からのアドバイスが……!)」
風邪「アシカショーに間に合わなかったのを気にしているんですか……?」
男「……へっ?(アシカショー?)」
風邪「確かにショーにはもう間に合いませんけど、私は……」
男「(アシカショーなんてあったんだ。あー、サイトに写真があったかも。でも時間までは調べてなかったな……)」
風邪「お、男さん?」
男「はい!?」
風邪「もしかして……アシカショーは関係なかったですか?」
男「いえ! ドンピシャです! すいません、俺のせいでアシカショーが見れなくて……」
風邪「気にしないで下さい。私の本命は別でしたからセーフです」
男「本命って、イルカとかラッコですか?」
風邪「いいえ、クラゲです!」
男「(迷い無く答える姿は可愛いけど、何故にクラゲ……?)」
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