【男と風邪が水族館に行く話】1 ★4
ガヤガヤ…

男「昼の食堂はやっぱり混んでるな~。それはそうと……ほれ、これが心理学のノート。んでもってこっちが環境科学」

男友「……」

男「で、現代社会学は後輩が受けてると思うからまた聞いてみるよ。俺が助けれるのはこれくらいかな」

男友「男~……。お前には苦労をかけるねえ」

男「お母さんかよ。全く……バイト先の女の子に振られたから旅に出る、って電話が来た時は本当にびっくりしたぞ」

男友「すまーん」

男「二週間近くもどこにいたんだよ」

男友「広島……。これ、お土産のもみじまんじゅう……」


ガサガサ


男「……俺は何てコメントしたらいいのかな」

男友「ああ、それ色んな味があるから。個人的にはサツマイモ餡のやつがオススメ」

男「……」

男「……まあいいや、とりあえずありがとな。俺、次授業だからもう行くよ」

男友「ノート本当に助かったー。サンキュな」

男「おお。出席は足りてるみたいだから後は頑張って勉強しろよ」

男友「必死で頑張るわ。……あ、ちょっと待った!」

男「ん?」

男友「俺にはもう必要ないものだから……お前にやるよ」

男「ん?」

男友「ノートのお礼だと思ってくれ。じゃ、俺もう行くから。またな~」

男「あー……、行っちまった。別に気にしなくても良かったのに」

男「ところで、友のやつ何くれたんだろ……?」

ゴソゴソ

男「あ」








男「ふいー、今日も疲れた~」

男「(誰もいない部屋まであと数百メートル……はあ、寂しいなあ。これで『お帰りなさい』ってあの人に出迎えてもらえたら疲れも吹き飛ぶんだけどな~……)」

風邪「あ……男さん?」

男「うっお!」

風邪「わわ、驚かせてごめんなさい」

男「いやいや! マイワールドに入っていた俺が悪いんです。まさか本人に会えるなんて」

風邪「本人?」

男「いえいえ、こっちの話なんで忘れて下さい。買い物か何かの途中ですか?」

風邪「男さんのお部屋に伺おうとしていたんですけど……宜しいでしょうか?」

男「どっ……どうぞどうぞ! 俺も帰る途中だったんで」

風邪「そうですか。男さん……お帰りなさい」

男「……!(疲れが……吹き飛んだ……)」

風邪「あ……、まだ外でしたね。ふふ」

男「はは……(顔がにやけて戻らない……)」









風邪「おじゃまします」

男「どうぞどうぞ。遠慮なく上がって下さい。とりあえず温かいお茶でもどうぞ」

風邪「どうもすいません」

男「あと……これお茶請けのもみじまんじゅうです。サツマイモ餡のやつがいいらしいですよ」

風邪「そうですか……。あら、サツマイモのは一つだけみたいですね」

男「本当だ。でも、他にも色んな味があるから気にしなくていいですよ
風邪「……じゃあ、半分こしましょう」

男「え?」

風邪「上手く割れるかしら」


ガサガサ


風邪「……うん、綺麗に割れたわ。どうぞ男さん」

男「……あ、ありがとうございます」

風邪「ではいただきます。……あ、美味しい」

男「で、ですね」

風邪「ふふっ……」

男「(春の日差しのようなこの幸せを、一体どう表現すればいいんだろう……)」

風邪「私、この前看病してもらったお礼に来たんです」

男「そんなの気にしなくていいのに」

風邪「駄目です! 男さんと鍋をする約束だったのに体調を崩してしまって……」

男「あ、じゃあ今から鍋しませんか?」

風邪「え?」











グツグツ……


男「もういいかな。それじゃ食べましょうか」

風邪「私、お礼をしに来たのに……いいんでしょうか?」

男「いいに決まってるじゃないですか。元々鍋する約束はしてましたし。それに、ずっと看病してもらっていたのは俺の方じゃないですか」

風邪「でも……」

男「はいはい、そこまでー。何か好きな具ありますか?」

風邪「え……?」

男「返事がない場合は、次々と白菜がお椀に投下されまーす」

風邪「ええええ!? と、鶏団子! 鶏団子お願いします!」

男「ははは、了解しました」






風邪「お鍋美味しかったですね」

男「え? まだ終わってないですよ。それじゃあ締めに入りますか」

風邪「しめ? 何を閉めるんですか?」

男「鍋の最後にご飯とか入れたりしません?」

風邪「やったこと……ないです(お鍋食べたのも今日が初めてだったから)」

男「お腹に余裕があるなら試してみませんか?」

風邪「はい、余裕ならまだ少し」

男「よし! それじゃあご飯持ってきますね」

風邪「(お鍋にご飯……。どうなるのかしら?)」





男「戻りましたー。卵とネギもあったんで持ってきましたよ」

風邪「何だか……ワクワクしますね」

男「楽しみにしといて下さい。絶対にその期待は裏切りませんから」

風邪「はい!」



男「最後にネギを乗せて……。はい、出来上がりー。どうぞ食べてみて下さい」

風邪「いただきます……」パクッ……

男「ど、どうですか……?」

風邪「……」

……カラン

男「(箸落とした!?)」

風邪「男さん……。私、今すごく感動してます……!」

男「(しかも泣いてる!?)」








カチャカチャ……

男「すいません、片付けやってもらって」

風邪「いいんですよ」

男「それにしても……いきなり箸落として泣かれたのにはびっくりしました」

風邪「わわ、忘れて下さい!」

男「ははは。でも、喜んでもらえたみたいで良かった」

風邪「本当に美味しかったです……。あれを考えた方に金一封を贈りたいくらい」

男「(……相当気に入ったんだな)じゃあ、また近いうちに鍋するんで来てくれますか?」

風邪「……いいんですか?」

男「お待ちしています」

風邪「嬉しい……! ありがとうございます!」

男「いえいえ(目がキラッキラしてる……可愛いなあ)」









風邪「それでは、長々とお邪魔しました」

男「外寒くないですかね?」

風邪「大丈夫だと思います。あの……」

男「はい?」

風邪「しつこいと思われるかもしれませんが、本当に……本当にお礼をしなくても宜しいんですか?」

男「まだ考えてたんですか……」

風邪「だって、あんなに美味しいものをご馳走になったのに……。お弁当でも夕食でも作りますし、お掃除だってしますよ?」

男「本当に気にしなくても……(お弁当には一瞬心が揺らいだが)」

風邪「何か、困っている事はないですか……?」

男「う~ん……。あ」

風邪「何かありましたか!」

男「ちょっと……待ってて下さいね」

風邪「?」

男「(確か上着のポケットに……ああ、あったあった)」



男「お待たせしました」

風邪「何をいたしましょうか!」

男「じゃあ、これを」

風邪「封筒? 中に何か……。アニヲタシーワールド……? 男さん、これは……?」

男「俺と水族館に行ってくれませんか?」
風邪「水族館って、魚が沢山いる……」

男「そうです。どうでしょうか?」

風邪「楽しそうだとは思うんですけど……」

男「けど?」

風邪「それって、ちゃんとお礼になっているんでしょうか?」

男「なってます! そりゃあもう、俺大喜びですよ!」

風邪「……大喜びなんですか?」

男「もちろん!」

風邪「じゃあ、是非お願いします」

男「はい!」

風邪「水族館は初めてなので……とても楽しみです」

男「(笑顔が可愛い……。本当に楽しみにしてくれてるんだな)俺もです。行く日なんですけど、日曜日はどうですか?」

風邪「大丈夫です」

男「じゃあ昼前に駅前に集合って事で」

風邪「分かりました。ところで、お昼ご飯はどうされるんですか?」

男「食べてからか、それとも駅前で何か……」

風邪「もし良かったらお弁当にしませんか?」

男「えっ」

風邪「是非作らせて下さい。私、頑張りますから」

男「……」

風邪「お弁当……お嫌いでしたか?」

男「とっ、とんでもない! 今のは頭の思考回路がショート寸前といいますか、嬉しくてびっくりしただけですから!」

風邪「では、お弁当は……」

男「楽しみにしてます!」

風邪「良かった。では、また日曜日に」

男「それじゃあまた」

パタン


男「……」


男「(……いやったあああー!)」


ガッ!


男「ぐあ! 小指が……! でも幸せだ! 一緒に水族館、そしてお弁当……。夢じゃないよな?」









風邪「ふふっ。水族館……楽しみだわ。お弁当何作ろうかしら」

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匿名読者
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