ガヤガヤ…
男「昼の食堂はやっぱり混んでるな~。それはそうと……ほれ、これが心理学のノート。んでもってこっちが環境科学」
男友「……」
男「で、現代社会学は後輩が受けてると思うからまた聞いてみるよ。俺が助けれるのはこれくらいかな」
男友「男~……。お前には苦労をかけるねえ」
男「お母さんかよ。全く……バイト先の女の子に振られたから旅に出る、って電話が来た時は本当にびっくりしたぞ」
男友「すまーん」
男「二週間近くもどこにいたんだよ」
男友「広島……。これ、お土産のもみじまんじゅう……」
ガサガサ
男「……俺は何てコメントしたらいいのかな」
男友「ああ、それ色んな味があるから。個人的にはサツマイモ餡のやつがオススメ」
男「……」
男「……まあいいや、とりあえずありがとな。俺、次授業だからもう行くよ」
男友「ノート本当に助かったー。サンキュな」
男「おお。出席は足りてるみたいだから後は頑張って勉強しろよ」
男友「必死で頑張るわ。……あ、ちょっと待った!」
男「ん?」
男友「俺にはもう必要ないものだから……お前にやるよ」
男「ん?」
男友「ノートのお礼だと思ってくれ。じゃ、俺もう行くから。またな~」
男「あー……、行っちまった。別に気にしなくても良かったのに」
男「ところで、友のやつ何くれたんだろ……?」
ゴソゴソ
男「あ」
男「ふいー、今日も疲れた~」
男「(誰もいない部屋まであと数百メートル……はあ、寂しいなあ。これで『お帰りなさい』ってあの人に出迎えてもらえたら疲れも吹き飛ぶんだけどな~……)」
風邪「あ……男さん?」
男「うっお!」
風邪「わわ、驚かせてごめんなさい」
男「いやいや! マイワールドに入っていた俺が悪いんです。まさか本人に会えるなんて」
風邪「本人?」
男「いえいえ、こっちの話なんで忘れて下さい。買い物か何かの途中ですか?」
風邪「男さんのお部屋に伺おうとしていたんですけど……宜しいでしょうか?」
男「どっ……どうぞどうぞ! 俺も帰る途中だったんで」
風邪「そうですか。男さん……お帰りなさい」
男「……!(疲れが……吹き飛んだ……)」
風邪「あ……、まだ外でしたね。ふふ」
男「はは……(顔がにやけて戻らない……)」
風邪「おじゃまします」
男「どうぞどうぞ。遠慮なく上がって下さい。とりあえず温かいお茶でもどうぞ」
風邪「どうもすいません」
男「あと……これお茶請けのもみじまんじゅうです。サツマイモ餡のやつがいいらしいですよ」
風邪「そうですか……。あら、サツマイモのは一つだけみたいですね」
男「本当だ。でも、他にも色んな味があるから気にしなくていいですよ
風邪「……じゃあ、半分こしましょう」
男「え?」
風邪「上手く割れるかしら」
ガサガサ
風邪「……うん、綺麗に割れたわ。どうぞ男さん」
男「……あ、ありがとうございます」
風邪「ではいただきます。……あ、美味しい」
男「で、ですね」
風邪「ふふっ……」
男「(春の日差しのようなこの幸せを、一体どう表現すればいいんだろう……)」
風邪「私、この前看病してもらったお礼に来たんです」
男「そんなの気にしなくていいのに」
風邪「駄目です! 男さんと鍋をする約束だったのに体調を崩してしまって……」
男「あ、じゃあ今から鍋しませんか?」
風邪「え?」
グツグツ……
男「もういいかな。それじゃ食べましょうか」
風邪「私、お礼をしに来たのに……いいんでしょうか?」
男「いいに決まってるじゃないですか。元々鍋する約束はしてましたし。それに、ずっと看病してもらっていたのは俺の方じゃないですか」
風邪「でも……」
男「はいはい、そこまでー。何か好きな具ありますか?」
風邪「え……?」
男「返事がない場合は、次々と白菜がお椀に投下されまーす」
風邪「ええええ!? と、鶏団子! 鶏団子お願いします!」
男「ははは、了解しました」
風邪「お鍋美味しかったですね」
男「え? まだ終わってないですよ。それじゃあ締めに入りますか」
風邪「しめ? 何を閉めるんですか?」
男「鍋の最後にご飯とか入れたりしません?」
風邪「やったこと……ないです(お鍋食べたのも今日が初めてだったから)」
男「お腹に余裕があるなら試してみませんか?」
風邪「はい、余裕ならまだ少し」
男「よし! それじゃあご飯持ってきますね」
風邪「(お鍋にご飯……。どうなるのかしら?)」
男「戻りましたー。卵とネギもあったんで持ってきましたよ」
風邪「何だか……ワクワクしますね」
男「楽しみにしといて下さい。絶対にその期待は裏切りませんから」
風邪「はい!」
男「最後にネギを乗せて……。はい、出来上がりー。どうぞ食べてみて下さい」
風邪「いただきます……」パクッ……
男「ど、どうですか……?」
風邪「……」
……カラン
男「(箸落とした!?)」
風邪「男さん……。私、今すごく感動してます……!」
男「(しかも泣いてる!?)」
カチャカチャ……
男「すいません、片付けやってもらって」
風邪「いいんですよ」
男「それにしても……いきなり箸落として泣かれたのにはびっくりしました」
風邪「わわ、忘れて下さい!」
男「ははは。でも、喜んでもらえたみたいで良かった」
風邪「本当に美味しかったです……。あれを考えた方に金一封を贈りたいくらい」
男「(……相当気に入ったんだな)じゃあ、また近いうちに鍋するんで来てくれますか?」
風邪「……いいんですか?」
男「お待ちしています」
風邪「嬉しい……! ありがとうございます!」
男「いえいえ(目がキラッキラしてる……可愛いなあ)」
風邪「それでは、長々とお邪魔しました」
男「外寒くないですかね?」
風邪「大丈夫だと思います。あの……」
男「はい?」
風邪「しつこいと思われるかもしれませんが、本当に……本当にお礼をしなくても宜しいんですか?」
男「まだ考えてたんですか……」
風邪「だって、あんなに美味しいものをご馳走になったのに……。お弁当でも夕食でも作りますし、お掃除だってしますよ?」
男「本当に気にしなくても……(お弁当には一瞬心が揺らいだが)」
風邪「何か、困っている事はないですか……?」
男「う~ん……。あ」
風邪「何かありましたか!」
男「ちょっと……待ってて下さいね」
風邪「?」
男「(確か上着のポケットに……ああ、あったあった)」
男「お待たせしました」
風邪「何をいたしましょうか!」
男「じゃあ、これを」
風邪「封筒? 中に何か……。アニヲタシーワールド……? 男さん、これは……?」
男「俺と水族館に行ってくれませんか?」
風邪「水族館って、魚が沢山いる……」
男「そうです。どうでしょうか?」
風邪「楽しそうだとは思うんですけど……」
男「けど?」
風邪「それって、ちゃんとお礼になっているんでしょうか?」
男「なってます! そりゃあもう、俺大喜びですよ!」
風邪「……大喜びなんですか?」
男「もちろん!」
風邪「じゃあ、是非お願いします」
男「はい!」
風邪「水族館は初めてなので……とても楽しみです」
男「(笑顔が可愛い……。本当に楽しみにしてくれてるんだな)俺もです。行く日なんですけど、日曜日はどうですか?」
風邪「大丈夫です」
男「じゃあ昼前に駅前に集合って事で」
風邪「分かりました。ところで、お昼ご飯はどうされるんですか?」
男「食べてからか、それとも駅前で何か……」
風邪「もし良かったらお弁当にしませんか?」
男「えっ」
風邪「是非作らせて下さい。私、頑張りますから」
男「……」
風邪「お弁当……お嫌いでしたか?」
男「とっ、とんでもない! 今のは頭の思考回路がショート寸前といいますか、嬉しくてびっくりしただけですから!」
風邪「では、お弁当は……」
男「楽しみにしてます!」
風邪「良かった。では、また日曜日に」
男「それじゃあまた」
パタン
男「……」
男「(……いやったあああー!)」
ガッ!
男「ぐあ! 小指が……! でも幸せだ! 一緒に水族館、そしてお弁当……。夢じゃないよな?」
風邪「ふふっ。水族館……楽しみだわ。お弁当何作ろうかしら」
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