本編6 ★4
男「(食料は充分なくらいにあるから外に出なくてもいい。体はまだ本調子じゃないからあまり動けない)……暇だ……」


男「(いつもなら、この時間帯にノックが聞こえてたんだけどなあ……)」


……コンコン


男「!?(つ、ついに幻聴が……?)」


男「…………」


シーン……


男「やっぱり気のせい…」

風邪「こんにちは……」

男「!」

ダダダダッ


風邪「休んでいるのかな?だったら邪魔しないで帰った方が……」

バタン!

風邪「わっ!」

男「はあ……はあ……」

風邪「び、びっくりしました……」

男「それはこっちの台詞ですよ……。どうしてここに?」

風邪「え?(言い訳を考えてなかった……)」

男「もしもし?」

風邪「えっと、家の方の用事がちょっと延期になったみたいで……」

男「そうなんですか」

風邪「はい。いつ呼び出されるか分からないんですけど、それまでの間、やっぱり男さんのお見舞いに来たいなと思って……」

男「……いいんですか?」

風邪「はい!(いつまで一緒にいられるか分からないけど……)」

男「良かった……。正直、寂しいなって思っていたんですよ。あの旨いお粥も、もう食べられないのか~って考えたりして」

風邪「あら酷い、お粥だけですか?」

男「い、いやお粥も、ですよ。本当は凄く会いたいなって思ってました。でも、そういう事をあんまりストレートに言うと引かれるかな~って……」

風邪「……引いたりしません。むしろ嬉しいですよ」

男「……え? 今、何て?」

風邪「男さん、食事まだでしたら作りましょうか?」

男「あ……は、はい……お願いします」

風邪「それではお邪魔します。体調も良くなってきたようなので、今日は雑炊にしますね」

スタスタ

男「…………あれ、また熱が上がってきた?」





男「今日はもう食事済ませてきたんですか?」

風邪「私ですか? い、いえまだですけど」

男「もし良かったら一緒に食べませんか?」

風邪「えっ」

男「誰かと食べた方が楽しいかなと思ったんですけど。あ、もしかしてこの後何か予定でも……」

風邪「いいえ、大丈夫です! じゃあ二人分作りますね」

男「お願いします」


男「(二人分の食事を作らせておきながら、俺だけ何もしないってのも変だよな……。もう風邪だってそこまで酷くないのに。何か……)あの、リンゴ好きですか?」

風邪「リンゴですか? ええ、好きですよ」

男「じゃあ俺リンゴ切りますよ。台所狭いんで……俺はこっちの部屋で作業しますね」

風邪「期待してます」

男「任せといて下さい」




男「(とは言ったものの、リンゴなんて最近食べてないからどうやって切ったらいいのか分からんぞ。でも喜んでほしいしな……よし、ウサギにするか!)」


風邪「(何だか隣の部屋から凄い気合いを感じる……。男さん、リンゴが大好きなのね)」


男「(なに、ウサギなんて簡単簡単。まずは8等分に切って、塩水につけて……耳を作るのは、こう半分くらいまで皮の下を切って……………あ……これは俺の分にしよう)」

風邪「(隣の部屋から物音がしない……何て凄い集中力なんだろう……)」

男「(……これも俺の分……)」

男「(よし、だいぶコツが掴めてきた。あとは切れ目を入れて耳を作ってやるだけ……)」


ポロッ


男「うお!」

風邪「! 男さんどうしたんですか!」

男「い、いえ大丈夫です! どうぞそのまま料理を続けて下さい!(彼女にこんな無様な姿は見せられん!)」

風邪「男さんが大丈夫だと言うのなら……。でも本当に大丈夫なんですよね?」

男「ええ、全然平気ですよ。耳がちぎれただけですから」

風邪「えええええー!? それのどこが平気なんですか! 男さんしっかりして下さい!」

男「ぎゃああ! こっちに来ないで!」



風邪「ごちそうさまでした…………ふふっ」

男「雑炊食べ終わったのにまだ笑ってる……。思い出し笑いされる度に恥ずかしくなるんで、そろそろ許して下さいよ」

風邪「だって耳がちぎれたって言うからびっくりしたのに、リンゴで作ったウサギの耳の事だったなんて…………ふふ」

男「まあ、紛らわしい事を言った俺が悪かったんですけどね。さあデザートをどうぞ。一匹だけ成功したウサギです」

風邪「……私が頂いていいんですか?」

男「俺が食べてどうするんですか……」

風邪「……」

じいっ……

男「あの、もしかしてもうお腹いっぱいですか?」

風邪「え? いえ違うんです! 嬉しくて……このウサギさんをしっかり見ておこうかと……」

男「……!」

風邪「では、いただきます」

シャリシャリ

風邪「凄く美味しいです。……あの、どうかしましたか?」

男「いや、何だか顔が熱くて……」

風邪「まさか熱が!」

男「……いや、多分違うかな……」







風邪「じゃあ、そろそろ失礼します」

男「色々と引き止めてしまってすいません」

風邪「いえ、私も楽しかったです。あ、そういえば……この前お借りしたマフラー……」

男「マフラー……? ああ、別に今日返してもらわなくてもいいですよ。まだ寒さが続くみたいだし」

風邪「でも……(人様の物をあまり長く借りていては失礼に……それとも、ここは素直に借りておく方が……)」

男「……?(もしかして……ダサいマフラーに嫌気がさしていて、本当は早く返したいとか?)」

風邪・男「…………」


風邪「(ここはどう答えたら失礼にならないのかしら……)」

男「(何か、めちゃくちゃ悩んでる……。ここは俺が引いた方がいいのか? でも、ただ遠慮しているだけだったら、この寒空にマフラー無しは可哀想だよな……)」

風邪「(う~んう~ん……)」



『(い、一か八かだ!)私は……隣の者です!』



風邪「あ」

男「?」

風邪「(忘れてた……。そういえば私って、隣に住んでる事にしてたんだ……!)」

風邪「(普通、数歩しか離れていない隣の住民にマフラーを貸してくれるとは考えにくい……。私でさえ隣に住んでいるって設定を今の今まで忘れていた訳だし、男さんはあの時フラフラだったから……)」

男「?」

風邪「(もしかして男さんも忘れてる? きっとそうだわ。それじゃあ、私がこのまま遠慮し続けていたら……)」


【風邪の想像】

風邪「本当に大丈夫ですから……」

男「でも、外は寒いみたいだから心配だな。家に帰るまでずっと寒い思いをするのは…………あれ、そういえば隣に住んでいるんでしたっけ?」

風邪「(ギクッ!)ええ、まあ……」

男「じゃあマフラーは余計でしたね。今までどうもすいませんでした」

風邪「いえ……どうぞお気になさらず……(ドキドキ)」

男「ところで、左右どちらの隣に住んでいるんでしたっけ?

風邪「…………!」

―バッドエンド―




風邪「(きゃあああー! 駄目駄目! それは絶対に駄目ー!)」

風邪「あ、あわわわ……!(隣に住んでいるって設定だって苦し紛れに言った事だったのに、左右どちらかなんて……もう何て答えたら……。男さんに余計な事を思い出させてはいけない……!)」

男「……(あわわ?)」

風邪「(マフラーは借りなきゃ。もう絶対断っちゃ駄目……!)」

男「あの」

風邪「は、はい!」

男「今さっき何か言いませんでした? あわわって聞こえた気がしたんですけど……?」

風邪「え!? えーっと……。寒くて、そう寒くてつい!」

男「…………」

風邪「(えーん、とっさに変な事を口走っちゃった。どうしよう、男さん目を点にしてるし……)」

男「……ええええ!? 大丈夫ですか? 寒いなら無理しちゃ駄目ですよ。マフラーどうぞ使って下さい!」

風邪「!!(チャンスだ!)はいっ、ありがとうございます!」

ガシッ!

男「!(うおおお手がー!)」

風邪「男さんの物を長々とお借りするのは心苦しいのですが……、宜しいでしょうか?(断っちゃ駄目断っちゃ駄目……!)」

男「ど、どうぞどうぞ!(うわあああ!)」

パッ

風邪「またマフラーお借りしますね。それではまた明日」

男「は、はい気をつけて(手があったかくて、やわらかかった……)」

パタン




風邪「(…………すっごく緊張したー! いきなりマフラーを借りるって言って不自然じゃなかったかな? どうか男さんが余計な事を思い出しませんように! ああ……! 今この瞬間に思い出していたらどうしよう……)」


男「何か幸せ~……」

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匿名読者
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