男「でも……」
風邪「ご迷惑でなければ手助けさせて頂けませんか?」
男「迷惑だなんて……。逆に、あなたに迷惑が……」
風邪「目の前で苦しんでいる男さんを放ってはおけませんから。よく言うでしょう、困ったときはお互い様だって」
男「それじゃあ……お願いします」
風邪「分かりました。では失礼します。よ……いしょ……っ!」
男「大丈夫ですか……?」
風邪「だいじょぶ……です……! 男さん、足元に段差があるので気をつけて下さいね……」
男「はい……」
男「ここで大丈夫です…」
風邪「あの、お布団は?」
男「いや……敷く体力もないのでコタツで……」
風邪「えええ!? 駄目ですよ、もっと悪化しちゃいますよ! お布団どちらですか?」
男「クローゼットの右…」
風邪「右ですね。失礼します」
男「(つい答えてしまった…)」
風邪「男さん、寒くないですか?」
男「はい……」
風邪「良かった……。あの、節介ついでに……お食事作ってもいいですか?」
男「えっ?」
風邪「何も口にされていないようですし、料理ができる程元気があるようにも……。あの、いかがでしょうか?」
男「いえ……本当に……そこまで頼る訳には……」
風邪「でも……(あまり食い下がったら、気持ち悪い奴だって思われてしまうかも……。でも、男さんをこのままにはしておけないし…)」
男「寝ていれば……大丈夫ですから……」
風邪「男さん……(どうしよう……)」
グウ~
男「…………(俺の腹の虫――――!)」
風邪「……(おなか…?)」
男「……(今なら恥ずかしくて死ねる……)」
風邪「……ぷふっ……! ご、ごめんなさい。でも、ついおかしくて……ふふふっ……」
男「は……はは……」
風邪「男さん、やっぱりお食事作らせて下さい。ちゃんとご飯を食べたらすぐ元気になれますよ」
男「……お願いします……」
風邪「はい!」
風邪「じゃあ、お粥でも作りますね。材料は……あ、扉の外に置いてきてしまったみたい。ちょっと取ってきます」
男「はい……」
風邪「戻りました。お台所借りますね」
男「あ、どうぞどうぞ」
風邪「男さん…」
男「う……」
風邪「大丈夫ですか。お粥ができたんですけど……食べれますか?」
男「頂きます……」
風邪「起き上がれます?」
男「はい、少し休んだら楽に……」
風邪「良かった。はいどうぞ。男さん喉を痛めているみたいなので味はつけていませんから、塩味が欲しいと思ったら小皿の梅干しをつまんで下さいね」
男「はい……」
風邪「それじゃあ、片付けも終わったので帰りますね」
男「色々とありがとうございました。やっぱり食事をしたら、少し体が楽になった気がします」
風邪「よかった……。あの……男さん、しばらくお見舞いに来ていいですか?」
男「えっ?」
風邪「少し元気にはなられたようですが、まだ心配なので……」
男「でも、これ以上あなたに迷惑をかける訳には……」
風邪「そんな、気にしないで下さい」
男「しかし……」
風邪「……(どうしよう……男さんの真意が分からない……。ここは何て答えたら……)」
風邪「本当に……大丈夫ですか?」
男「はい、大丈夫ですよ」
風邪「そ、そうですか……(もっと食い下がらなきゃ……男さんの体調がまだ悪いのはわかってるのに……。どうしよう……これ以上強引にしすぎて男さんに嫌われたらと思ったら……喉から声が出せない……)」
男「色々とお世話になりました」
風邪「…………いいえ」
風邪「(弱虫……! 『どうしよう』ばかり言って、いつもオドオドして……。何も満足にできない……。嫌い、嫌い、こんな自分大嫌い……! 『どうしよう』なんて絶対に言わない、もっと食い下がらなきゃ……男さんの体調がまだ悪いのはわかってるのに……。どうしよう……これ以上強引にしすぎて男さんに嫌われたらと思ったら……喉から声が出せない……)」
男「あの」
風邪「あ、はいっ!」
男「今更なんですけど、最初にお見舞いを扉の前に置いてくれたのもあなたですよね?」
風邪「はい……」
男「あー、やっぱりそうだったんですね」
風邪「……?」
男「俺を助けてくれたのは、全部あなただった訳だ。本当にどうもありがとう」
風邪「…………!」
風邪「(全部……。そっか、私オドオドしながら『どうしよう』ばかり言ってきたけど、色々な事をしてきたんだ。男さんの体調を悪化させてしまったりもしたけど、何も出来なかった訳じゃない……。まだ、私に出来る事が残っている……。男さんが1日でも早く元気になる為に出来る事があるなら、してあげたい。もし行動した事で男さんに嫌われたとしても、今ここで何もしなくて後から後悔するよりずっといい……)」
男「治ったら必ずお礼に行きます。……もしもし?」
風邪「(また足が震えてる……。ああ、もう好きなだけ震えてしまえ! 弱虫なりに覚悟を決めてやる!)わ、私……」
男「はい?」
風邪「私、やっぱり男さんのお見舞いに来たいです。男さんが本心から私の事を迷惑だと思っていたとしても……せめて、お見舞いを扉の前に置く事は許して下さい……」
男「……」
風邪「お願いします……」
男「……」
風邪「(あれ……?)男さん、ぽかんと口を開けて……どうしたんですか?」
男「いや、不思議で仕方なくて……」
風邪「不思議?」
男「だって、赤の他人の俺にそこまでする理由なんてどこにもないのに、どうして……」
風邪「それは……私にもよく分からないです。ただ、何かしなきゃと思って……」
男「はあ……」
風邪「男さん…駄目でしょうか……?」
男「いや、駄目も何も……恩人のあなたが強くそう言ってくれるなら……。でも、本当にいいんですか?」
風邪「もちろんです!」
男「じゃあ……お願いします。なるべく早く治しますので」
風邪「はい!」
男「あ、あと……さっきから気になっていたんですけど……」
風邪「はい?」
男「顔色が悪いみたいですけど大丈夫ですか……?」
風邪「…………え……?」
風邪「私の顔色がですか……?」
男「はい。もしかしたら俺のがうつって……」
風邪「い、いえ! そんな事はないですよ。至って健康ですのでご安心下さい」
男「そうですか。俺の気のせいだったのかな……?」
風邪「私まで体調を崩しては男さんの看病ができませんから。体調管理には気をつけているので大丈夫ですよ」
男「なら良かった」
風邪「それではまた明日お伺いしますね」
男「すいません、宜しくお願いします」
……パタン
男「(もう全てが有り得ない事ばかりで訳が分からんな……。風邪をひいたら隣人がお見舞いを持ってきてくれて、玄関で座り込んだ俺に肩を貸して、料理まで作ってくれて、そして頑なに俺の看病を続けると言って……。まるで昔話か詐欺師の手口でしか見たことのない展開だな。普通は怪しむはずなのに、どうして俺は彼女の申し出を全て受け入れたんだ……? 駄目だ、考えていたら眠くなってきた……
そうだ、彼女の手が震えていたんだ。玄関先で初めて会った時も、俺の看病を続けたいと言ってくれた時も……。手は震えていたけど、俺から目を決して逸らしたりはしなかったな。それを見て、彼女は絶対に悪い人じゃないと確信して……)」
コツコツ……
風邪「お待たせしました」
風邪「どちらですか……?」
?「ここや」
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