数日後……
男「いや~、天気もいいし体調は最高だし、今日は絶好の遊園地日和だ! ……て事は混みまくっているんだろうなあ……」
男「まあ遊園地だから混んでて当たり前だよな。さ、気を取り直して出かけるか」
男「で、着いたはいいけど……。何で……」
風邪「わ~。びっくりですね」
男「何でこんなにすいてるんだ!?」
男「平日並みに人が居ないな……」
風邪「私、遊園地ってもっと混み合う場所だと思ってました」
男「その予想が正しいはずなんですけど……。何故だ……?」
風邪「あっ、そういえば他県にオープン間近のテーマパークがあるとニュースで聞いたような」
男「今日がオープン初日だったんですかね」
風邪「それじゃあ、皆さんそちらに行ってしまったという事なのかしら」
男「そうかもしれませんね」
風邪「でも、そのおかげで私が迷子になる心配がなくなりましたよ」
男「ははは、逆に俺が迷子になったりして」
風邪「じゃあ……はい」
スッ
男「え?」
風邪「あ……すいません、手を繋ぐのは駄目でしたか?」
男「……いえ! いえいえ全然!」
風邪「では繋いでも……?」
ブンブン!
男「もちろん!」
ギュッ……
風邪「ありがとうございます」
男「い、いえいえ! さて、何に乗りたいですか」
風邪「う~ん、私にはよく分からないんですけど……。あ、あれがいいです」
男「おお、観覧車ですか」
風邪「でも……かなり向こうにありますね」
男「じゃあ最後に観覧車で締めるってのはどうですか?」
風邪「いいですね! すごく素敵です」
男「他はどれがいいですか?」
風邪「え~っと、歩きながら決めてもいいですか?」
男「そうですね。じゃあ行きましょうか」
風邪「はい!」
風邪「すごいすごい! 男さん、何だか絵本の世界みたいに色々なものがあります!」
グイグイ
男「そうですね~、おっと」
風邪「あ……! す、すいません。私ったらついはしゃいでしまって……」
男「いや~、楽しいって思ってもらえているみたいで良かった」
風邪「ええ、楽しいです! …………男さん、あの速いのは何ですか?」
男「ん?」
ゴオオオオ!
「キャアアアアアー!」
男「…………!」
風邪「速いですね……」
男「き、興味あるんですか?」
風邪「少し……。男さんはお嫌いですか?」
男「う……(あまり得意じゃないから、失態を見せる事になるかもしれない……。でも、彼女が乗りたいと言うなら……。く~、どうすればいいんだ!)」
男「(……よし!)の、乗りましょうか!」
風邪「えっ!?」
男「(あわわわわ! ついに言ってしまったー! もう後戻りはできないぞ……)」
風邪「あ……」
男「どうぞ遠慮はしないで下さい。まだまだ時間はありますし」
風邪「(ど……どうしよう。本当に少し興味があるだけだったのに……。あんなに速いものに乗って、振り落とされたりはしないのかしら……)」
男「(あ~! つい勢いで乗りましょうかなんて言ってしまったけど……滅茶苦茶心配だ! また気分が悪くなったりしたらどうしよう……)」
男・風邪「う~ん……」
男「(ヤバいヤバいヤバい……! 「やっぱり怖いから止めませんか」って言ってくれないかな……)」
風邪「(わわわどうしよう……。今更怖いから乗りたくないなんて言えないし……)」
チラッ
風邪「あっ……え~と」
男「ん?」
風邪「速そうですね」
男「あ~、そうですね」
男・風邪「(ああ…………乗りたくない……)」
男「(頑張れ俺……自分を信じるんだ! そうだ、もっとポジティブに考えよう)」
風邪「あら、何か看板が……」
男「(このジェットコースターに乗る事で二人の距離もぐっと縮まったり……うんうん、有り得ない話じゃないよな。…………はははは、いいじゃないか! 何だか楽しみになってきたぞ!)」
風邪「男さん……」
男「うわっ! は、はい!?」
風邪「あ、すいません。あそこに看板が……」
男「看板……? おや本当だ。何て書いてあるんだろう?(ジェットコースターの入り口にあるから、身長制限か注意事項かな)」
トコトコ……
男「え~と、『本日12時より、約1時間の点検を致します』……え!?」
風邪「今12時になったようですね」
男「そんなあ……」
男「(あああ~! ホッとしたようでもあり、しかし残念でもある……!)」
風邪「(男さん悔しそうだわ……。すごく楽しみだったのね。う~ん、本当は乗れなくなって安心しただなんて言えない……)」
男「(……ションボリ)」
風邪「男さん、どうか元気を出して……。そうだ、お昼にしませんか?」
男「えっ!?(ヤバい……残念そうにしていたのが露骨に顔に出ていたかな? よし、ジェットコースターの事はサッパリ諦めて昼食にするか!)いいですね! 俺、しっかり下調べしてきたので任せて下さい」
風邪「頼りにしてます」
男「…………」
風邪「『今月末まで、店内改装工事の為休業致します』……ですか」
男「ううう……すいません」
風邪「やだなあ男さん、他にもお店は沢山あるじゃないですか。さあ、行きましょう行きましょう」
男「そ、そうですね!(よし、食後からこの流れを変えてみせる!)」
風邪「おいしかったですね」
男「そうですね。(よっしゃー、何か元気出てきた!) さあ、バンバン遊びましょう!」
風邪「わわわ、男さん食べたばかりですから落ち着いて~」
男「乗りたいやつがあったらどんどん言って下さいね」
風邪「え~と、じゃあ食後なので……」
パラパラ
風邪「このショーを見てもいいですか?」
男「いいですね、腹も落ち着きそうだし」
風邪「それが終わったら、この左の方にある乗り物と……」
男「おー、面白そうですね」
数時間後……
男「えーっと……水を使ったショー、メリーゴーランド、3Dのアトラクション……結構見ましたね」
風邪「ええ、すごく楽しかったです。男さんが選んでくれたやつも楽しかったなあ……」
男「(これで汚名返上できたかな……?)」
風邪「(上司さんは怖いものもあるって言っていたけど……そんな事なさそうだわ。全部楽しかったもの。きっと、あの速い乗り物も怖いのは見かけだけだったのね)」
男「さて、次は何に乗ります?」
風邪「(つまり、この遊園地にあるものは全部怖くない……。それじゃあ……)え~っと」
キョロキョロ
風邪「あっ! 男さん男さん、私あれがいいです!」
男「(目をキラキラさせて可愛いなあ)はいは……い゛!?」
男「(おおおお化け屋敷ぃ? いやいや、特別に苦手な訳でもないんだけど……何か意外だな。まさかお化け屋敷マニア?)い、いいですね……」
風邪「(ここだけ和風の建物だなんて……特別な感じがするわ。何があるんだろう……?)楽しみですね!」
男「(楽しみ!? やっぱりお化け屋敷マニアなのか? しかし、好みは人それぞれ……別に変な事じゃないよな)そ……そうですね」
風邪「よーし、行きましょう男さん!」
男「お、お~」
係員「怪奇の……館に……ようこそ……」
男「!?(どわあああ! 入り口からスタッフが貞子みたいな格好しとる! 彼女は怖がってないかな……?)」
風邪「(……あっ、建物に見とれていて言葉がよく聞き取れなかったわ。え~と『ようこそ』って部分は聞き取れたから……)」
にこっ
男「(凄い……貞子に微笑むだなんて。これくらい何てことないんだな)」
係員「これから……お客様にはこの扉の向こうで……血も凍るような恐ろしい時間を過ごしていただきます……」
男「(何か言い方が怖っ!)」
風邪「(凍る? ああ……今さっきは他の所で水を使ったショーを見たけど、今度は氷なのかしら。うんうん、涼しげで結構な事だわ)」
男「(何か納得してる……)」
係員「中……は暗いので……ライトを……どうぞ」
男「ど、どうも」
係員「途中で……どうしても外に出たくなった時は……ライトの側面についた赤いボタンを……押して下さい」
男「(なるほど、これか)」
係員「それ以外の方法で……途中……外に出ることは出来ませんので……お気をつけ下さい……。それでは……行ってらっしゃいまし……」
ガラッ
男「(お~お~、扉の向こうはいかにもお化け屋敷って感じだな)それじゃあ入りますか」
風邪「ええ」
係員「扉を……閉めさせていただきます……」
ギイイイイ……
風邪「(所々聞こえにくかったけど、すごく丁寧な説明だったわ。でも……)あの、男さん」
男「はい?」
風邪「何で係員の方はあんな格好をしているんでしょうね?」
男「……………………え?」
風邪「えっ?」
男・風邪「えっ?」
バタン!
フッ……
風邪「ひっ……! お、男さん……急に暗くなりました!!」
男「落ち着いて。今ライトをつけますから」
カチッ
風邪「ありがとございます……。それにしても、どうしてここはこんなに暗いんでしょう? 照明が壊れているのかしら……」
男「…………あのう」
風邪「はい、何でしょう?」
男「さっきから何とな~く違和感を感じているので、質問させてほしいんですが……」
風邪「ええ、何なりと」
男「お化け屋敷に入った回数って、今日を含めて何回目ですか?」
風邪「え~っと……」
男「(数え切れないほど多いのかな……? 良かった。やっぱりただの考えすぎか)」
風邪「男さん……」
男「?」
風邪「質問を質問で返して申し訳ないのですが……」
男「はい?」
風邪「おばけやしき、って何でしょうか?」
男「(まさかの展開…………!)」
男「え~と、これから質問をいくつか出していくから答えて下さいね」
風邪「は、はい」
男「その1、ここはどこでしょう?」
風邪「え~っと……遊園地の楽しいアトラクションの一つ」
男「その2、ここが楽しい場所だと思いますか?」
風邪「もちろん! 今までのアトラクション全てが楽しいものでしたから」
男「その3、遊園地には怖いアトラクションが無いと思ってますか?」
風邪「はい。上司さんからは、怖いものもあると聞いていたんですけど……、きっと冗談だったんですね」
男「……最後の質問です。お化け好きですか?」
風邪「き、嫌いです! ううう、こんな暗い場所で怖い事言わないで下さい~」
男「あの…………。何か色々と思い違いをされているみたいなので、少し説明をしますね」
風邪「?」
男「それじゃあ……もう一回同じ質問をしますね」
風邪「……」
コクコク
男「その1、ここはどこでしょう?」
風邪「お化け屋敷の中です……」
男「そう、お化けに扮したスタッフや仕掛けが客を驚かすお化け屋敷です。それじゃあ質問その2、ここが楽しい場所だと思いますか?」
風邪「……」
フルフル
男「そうですね、だいたいの人にとっては楽しい意外の感情が勝る場所ですね。じゃあその3、遊園地には怖いアトラクションが無いと思ってますか?」
風邪「……」
フルフル
男「そう。中には絶叫系と呼ばれるアトラクションや、こんなお化け屋敷があります。では最後の質問、お化け好きですか……は聞かなくてもいいか」
風邪「……」
男「正しい知識を身につけた所で……出ましょうか」
風邪「……」
コクコク
風邪「うう……男さん、ごめんなさい」
男「いいんですよ」
風邪「どうやって出るんですか?」
男「このライトの赤いボタンを押し……」
ヒ……ヒヒヒヒヒヒ……………
風邪「キャアア!」
男「どわっ!」
ガン!
男「(ヤバ! 落とした!)」
風邪「ご、ごめんなさい! つい驚いてしまって……」
男「確かに、今のはびっくりしましたね」
ヒョイ
男「よし、赤いボタンを押して……」
カヒュッ
男「あれ?」
風邪「ま、まさか……まさか……」
カヒュッ、カヒュッ
男「うん、そのまさかです。漫画のような展開ですが……」
風邪「いや……男さん、それ以上言わないで……」
男「ボタンが壊れたみたいです。しかもライトまで」
風邪「いやあああ~!」
男「(薄暗いけど、照明だけで進めない事もないか)行けそう……ですか?」
風邪「いいえ……。多分、腰が抜ける寸前だと思います……」
男「そうですか……」
風邪「ごめんなさい、足手まといで……」
男「いえ。まあそれなら」
スッ
風邪「えっ?」
男「背中にどうぞ」
風邪「……よろしくお願いします!」
男「おろ?」
風邪「いつもなら……申し訳ないので遠慮する所なのですが……」
男「今は一刻も早く出たいと」
風邪「……」
コクコク
男「ははは、了解しました。目でもつぶっていて下さい。すぐに外へお連れしますよ。じゃあ、しっかりつかまっていてくださいね(結構広めの通路だから、ぶつかる心配もなさそうだな)」
風邪「は、はい……」
男「(もしかして今の俺……めっちゃ頼りにされてる? よしよし、間違いなくマイナスなイメージは消えたはずだ)ふっ、ふふ……」
風邪「い、今笑い声が!?」
男「(はっ!)すいません! 俺です」
風邪「ううう、驚かさないで下さい……」
男「す、すいません(いかんいかん、つい笑いが。俺には安全に彼女を外に連れ出すという使命があるんだ。気を抜いては駄目だな)」
風邪「(怖いから男さんの言う通り目を閉じていよう……)」
ギュッ
風邪「……」
ザワザワザワ……
風邪「…………」
エーンエーン
風邪「………………」
ガサッ!
男「わ!」
風邪「!?」
風邪「あのう、男さん……」
男「あ、すいません揺れましたか?」
風邪「いえ、目なんですけど……。やっぱり開けていていいですか。見えない分、耳から入る音で怖い想像をしてしまって……」
男「ああ、なるほど。そういう事でしたらどうぞどうぞ」
風邪「はい……」
…………ぱちっ
風邪「いやあああああ! お化けえぇ!!」
男「どわああ! 落ちる落ちる! 人形ですから!」
風邪「……うん、これなら大丈夫だわ」
男「あの~、今は何をしているんですか?」
風邪「左手を目の前にかざして、指の隙間から周りを見ています」
男「(……小さい頃にそうやって怖いテレビ見たなあ)な、なるほど。でも片手を離した状態は不安定ですから、しっかり掴まっていてくださいね」
風邪「はい」
男「(向こうが明るい……)」
風邪「わあ……」
男「急に開けた所に出たと思ったら、池が……。お化け屋敷の中に池のセットだなんて珍しいな」
風邪「あ、あそこに橋がありますよ」
男「(絶対……絶対橋の中央辺りで池の中から何か出てくるに違いない……)」
男「(怖がらせちゃいけないから下手な事は言えないな……)」
風邪「凄い……。手が込んでますね」
男「そうですね。じゃ、これから橋を渡ります」
風邪「はい!」
ギュッ
男「(幸せ……って、いかんいかん)」
ギシッ……ギシッ……
男「(一休さんのとんちじゃないけど、真ん中を通っておくか。何かが出てきて驚いた拍子に池にダイブだなんて洒落にならないもんな)」
風邪「鯉、いるかしら?」
男「ははは……どうでしょう(多分、鯉よりも恐ろしいものがいますよ~)」
ギシッ……ギシッ……
ギシッ……ギシッ……
男「(………………ん?)」
ギシッ……ギシッ……
ギシッ……ギシッ……
男「(俺が彼女を背負っているのに……)」
ギシッ……ギシッ……
ギシッ……ギシッ……
男「(足音が二人分あるのっておかしくないか? 嫌な予感がするぞ、嫌な予感が……)」
ギシッ……ギシッ……
男「(……?)」
ギシッ……ギシッ……
男「(足音が一つ消えた……?)」
男「…………」
チラッ
ダダダダダダダダダダ!!
落ち武者「うおおおおお!!」
男「どわぎゃあああああ!」
ドン!
男「あ」
風邪「きゃ……!」
落ち武者「えっ?」
男「お、落ちっ……!」
ドボン
田中「……私、お化け屋敷の責任者の田中と申します。この度は本当に申し訳ありませんでした」
風邪「いえいえ! どうか顔を上げて下さい」
田中「こいつにもよく言い聞かせておきますので……」
落ち武者「すいません……。今日あまり客が来なかったので、つい張り切ってしまって……」
風邪「き、気にしないで下さい。お仕事にかけるその情熱、素晴らしいと思います。ただ……、着替えては頂けないでしょうか……(ううう、怖い……)」
田中「お洋服の方も、申し訳ありませんでした」
風邪「こちらこそ濡れた服の代わりを用意して頂いてありがとうございます」
田中「いえ、ちゃんとしたものを用意できなくて申し訳ないくらいで」
風邪「プリントしてあるのはここのキャラクターですよね。いい思い出になります」
田中「そう言って頂けると嬉しいです。……あの、こちら入場無料券となっておりますので、宜しければ次回にお使い下さい」
風邪「えっ!? そんな、本当に大丈夫ですから」
田中「ほんの気持ちですからお気になさらないで下さい」
風邪「で、でも」
落ち武者「是非受け取って下さい!」
風邪「わ、わかりました。分かりましたから!(頭にまだ矢が刺さってる……!)」
風邪「それでは、何から何までありがとうございました」
田中「滅相もございません。どうか気を取り直して園内をお回り下さい」
風邪「はい」
田中「あの…………。そちらのお方、大丈夫でしょうか……?」
風邪「た、多分……」
男「………………」
田中・落ち武者「(目が死んでる……)」
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