【男と風邪が遊園地に行く話】1 ★4
上司「……」

男「…………」

上司「……」

男「…………(きっ、気まずい……。どうして俺はこの人と二人で喫茶めいでんにいるんだろう……。ああそうだ、いきなり呼ばれたんだ。でも……)」


チラッ


上司「……」

男「(着いてから殆ど喋ってくれない……。えーと、俺何かしたかな~……)」

男「(いやいや、怒られるような事はしていない……と思うんだけどなあ。ここは思い切って聞いてみたほうがいいんだろうか……?)」

上司「くっ……!」

男「?」

上司「わはははは! 男くん何やその顔は。まるで蛇に睨まれた蛙みたいやな」

男「え…………、あっ! もしかして、俺からかわれてたんですか?」

上司「それ以外に何があるんや。あ~今の顔、アイツにも見せてやりたかったわ」

男「ううう酷い……」

上司「ははは、すまんすまん。店に入ってきた時から緊張した顔をしとるんで、ついからかってしもたわ」

男「ようやく緊張の糸が切れた感じです……」

上司「まあ、これで許してや」


スッ


男「紙……、チケットですか?」

上司「剥き出しのままですまんけどな」

男「いえいえ。これは……あ、遊園地のチケットですね」

上司「そうや。それな、商店街の福引きで当てたんや」

男「商店街の福引きで? 俺も一昨日やってきたけど全部ハズレでしたよ。チケット当てるなんて凄いじゃないですか」

上司「儂は米とかの方が良かったんやけどな。まあ、そんな話はどないでもええか。とにかく、それはやるからアイツと二人で行ってきたらええ」

男「えっ!?」

上司「二人まで使えるらしいからな」

男「……」

上司「どした?」

男「上司さんが彼女と二人で行くって選択肢は……」

上司「あ~、ないない。ジェットコースターとか、振り回されるような機械のやつとか……考えただけで目眩がしそうや」

男「そうですか……。じゃあ、何でわざわざチケットを俺にくれたんですか? 彼女に手渡した方が手っ取り早い気もするんですけど……」

上司「そりゃあれや。君からアイツを誘ってもらう為やがな」

男「……? 俺から……ですか?」

上司「そうや。その方がアイツも嬉しいやろ。儂からもろた事は言わずに誘ってやり」

男「そんな……! それじゃあ俺が手柄を独り占めする事になるじゃないですか」
上司「ははは、そんなに大袈裟に構えんでもええって」

男「けれど……」

上司「ま、深く考えんで楽しんでき。あ、その券な来月までしか使えんらしいから気をつけや。ほいじゃあな」

男「あっ、お茶代くらいは持たせて下さい」

上司「……そんならお願いするかな。ごちそうさん」

男「いいえ、こちらこそ有り難うございました」


テクテク


男「(…………。夢、じゃないよな。本当に二人で遊園地に……)ヒャッホーイ!」

野良猫「!!?」

男「あまりの嬉しさについ叫んでしまった……。すまないね、野良猫よ」


男「さて、いつ誘おうか。明後日に会う約束をしているからその時に……うん、それがいいな」



男「…………。くう~! 楽しみで仕方がない!」











サアアア……


風邪「急に降り出したけど、男さん大丈夫かしら……」

男「こんにちはー。待たしてしまってすいません」

風邪「いえいえ、私もさっき来た所なんです。ちょうど今、男さんの事を考えていたんですよ。急な雨で困っていないかなあって。傘をお持ちのようで安心しまし……あら? でも少し濡れているみたいですね」

男「折りたたみ傘だったので、開くのに時間がかかっちゃって……」


スッ


風邪「どうぞ使って下さい。体が冷えちゃいます」

男「え……? いえいえいえ! そんな綺麗なハンカチ申し訳無くて使えないです!」

風邪「ふふ。使ってこそのハンカチですから遠慮なさらないで下さい」

男「いや、でも……」

風邪「じゃあ私が勝手に拭いちゃいます」

男「す、すいません。どうもありがとうございます」

風邪「どういたしまして」

風邪「あ……。見て下さい男さん、紫陽花がとっても綺麗」

男「本当だ」

風邪「待ち合わせ場所が公園だなんて珍しいなと思ったら、この為だったんですね」

男「はい。最近ここの紫陽花が評判になっていたみたいなので」

風邪「これだけ綺麗なら評判になるのも分かる気がします。今日はこれから喫茶店にでも行きますか?」

男「そうですね。あ、忘れないうちに……」


ゴソゴソ


風邪「?」

男「これ、遊園地のチケットなんですけど一緒にどうですか?」

風邪「遊園地……」

男「行った事ありますか?」

風邪「いいえ、ないんです。本でどんな場所かは知っている程度です」
男「じゃあぜひ!」

風邪「でも、この前から男さんに色々して頂いているから申し訳なくて……」

男「いやいや、気にしないで下さい。これ賞品だったんですよ」

風邪「賞品?」

男「は、はい商店街の福引きで……」

風邪「当たったんですか!? 男さん運がいいんですね。きっと、日頃の行いが良い事へのご褒美ですよ」

男「ははは……(当てたのは俺じゃないんだけどなあ)えーっと……という訳で手に入れた物なので、気にしないで受け取ってくれると嬉しいんですけど……」

風邪「そうですか……。では、ありがとうございます」

男「どういたしまして」

風邪「…………」


じいっ……


男「どうかしました? チケットを見つめているようですけど……」

風邪「えっ? 嬉しいなあ……って思っていたらつい。ごめんなさい、しばらく顔がニコニコしたままかもしれないです」

男「…………!(うわあああああ! 良心の呵責があるせいで、はにかむような笑顔が直視できない……!)」

男「(落ち着け落ち着け……。これは彼女の上司からの頼みでもあるから、俺が良心を痛める理由なんてないんだ……!)」

風邪「初めての遊園地、とっても楽しみ……! 男さん、いつも有難うございます」

男「…………。あ、いえ。どういたしまして」

風邪「ふふふ~」

男「…………(本当なら、この笑顔を見るのもお礼を言われるのも俺じゃなくて……)」

男「……」



上司『そりゃあれや。君の口からアイツを誘ってもらう為やがな』

男『俺から……ですか?』

上司『そうや。その方がアイツも嬉しいやろ。儂からもろた事は言わずに誘ってやり』



男「……すいません、約束破ります」

風邪「えっ? 今何か仰いました?」

男「いえいえ、ただの独り言です。あと……言わなきゃいけない事が」

風邪「?」

男「そのチケット、実は上司さんから頂いたんです」

風邪「えっ?」

男「すいません。チケットを福引きで当てたのは上司さんだったんです」

風邪「……」

男「嘘ついてすいませんでした」

風邪「いえ、あの……男さん男さん、どうか頭を上げて下さい」

男「はい……」

風邪「男さんはそうするようにと頼まれただけでしょう?」

男「……!? どうしてそれを?」

風邪「長い付き合いですから」

男「へえ~……」

風邪「上司さんって、いつもそうやって私に親切にしてくれるんです」

男「優しい人なんですね」

風邪「ええ、とても。でも……すぐに裏方に回ろうとしちゃうんですよね」

男「なるほど」

風邪「きっと今までにもお礼を言いそびれた事があるんじゃないかと思うんです。全くもう、上司さんったら……」

男「もしも~し、台詞と表情が合ってませんよ(何だか嬉しそうだな~)」

風邪「ふふっ」

男「……(あ~あ、結局は上司さんの好感度の方を大きく上げちゃったか。ま、それでもいいや)」

風邪「あら、雨が止んだみたいですね」

男「今のうちに喫茶店に行きますか」

風邪「そうですね。じゃあ行きましょー」

男「おー」


パシャパシャ……


風邪「この辺は結構水たまりがありますね……あっ!!」

男「大丈夫ですか!?」

風邪「いえ、違うんです。男さん、傘を公園に忘れていないですか?」

男「傘……どわっ!? 本当だ!!」

風邪「すいません、私がすぐに気がついていれば……」

男「いやいや。忘れた俺が悪いんですよ。ちょっと戻ってくるので先に喫茶店に行って待ってて下さい」

風邪「お一人で大丈夫ですか」

男「はい。すぐに戻りますから。……それじゃ!」

風邪「車に気をつけて下さいね」

男「はーい」


バシャバシャ

男「えーと、忘れたとしたら公園のあずまやでだろうな」


バシャバシャ


男「うん? 誰かいる……。あ、あれっ?」

上司「よう」

男「どうも。お散歩ですか?」

上司「まあそんな所やな。それよか……ほれ、傘。これ取りに戻って来たんやろ?」

男「わあ、どうもすいませ~ん……て、どうしてこの傘が俺のだと知ってるんですか!?」

上司「ナイスなノリツッコミやな男くん」

男「この傘には名前も書いていないし、上司さんと会った時はいつも晴れていました……」

上司「そうやったな」

男「だからこの傘の存在を知っているはずはない」

上司「うんうん、まあそうやな」

男「それなのに上司さんが傘の持ち主を俺だと言い当てる事ができた理由はただ一つ……」

上司「……」

男「上司さんは公園にいた俺を目撃していた。だからこれが俺の傘だという確信があった……。これが俺の推理です」

上司「お見事や古畑くん」
男「どうも有難うございます。あのドラマ、また再放送してくれませんかね。えーと、冗談はそろそろ止めにしといてですね……」

上司「ふんふん」

男「……」


バッ!


男「約束破ってしまってすいませんでした!」

上司「……」

男「多分、俺が彼女に話してしまう所もご覧になったんじゃないかと思います」

上司「まあな」

男「後悔はしてないつもりなんですけど、やっぱり勝手に約束を破ってしまった事は謝るべきかと思いまして……」

上司「…………まあ、男くん顔上げや」

男「は、はい……」


スッ


男「…………(ん?)」

男「…………(笑ってくれている……? 約束を破った俺に対してニコニコと……いや、これはニコニコって笑い方じゃない。もっといい表現が……)」

上司「……」


ニヤリ


男「!?(『計画通り!』って台詞が見えるようなニヤリ笑いしてるー!!)」

上司「おや? どうしたんかな男くん?」

男「ま、まさか……最初からこうなると予想して……?」

上司「…………ふっ」

男「(やっぱりかー!)」

上司「はっはっは! いやあ~からかいがいのある奴が増えて楽しいなあ」

男「ううう……」

上司「まあ、遊園地のチケットは本物やから楽しんできや。そんなら、またな~」

男「う~……」









ガチャ


風邪「あっ、男さん! 少し遅いから心配していたんですよ」

男「すいません……何か……孔明の罠にはまってしまって……」

風邪「こうめい?」
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