【男と風邪と上司が3人で会う話】 ★4
上司「さーて、もうそろそろやな」


コンコン


上司「おお、今開けるわ」



ガチャッ


上司「よう」

風邪「こんにちは上司さん。昨日は突然電話してすいませんでした」

上司「構わんよ。まあ上がりや」

風邪「失礼します」

上司「茶と菓子でもどうや?」

風邪「あ、お構いなく」

上司「そか。なら儂だけで水羊羹食べよかな」

風邪「…………あの~、今さっきの一言は取り消し可能でしょうか……?」

上司「まあ良かろう。ほい、冷たいうちに食べや」

風邪「わあい」
上司「ほんで、今日は一体何の用事で来たんや?」

風邪「はい、あの……非常に厚かましいお願いで申し訳ないのですが……」

上司「ふんふん」

風邪「私には両親が居ないので、できたら上司さんに……」

上司「(はは~ん、何かの保証人になってくれって話……)」

風邪「両親の代わりとして男さんに会って頂きたいんです」

上司「ブハッ!!?」

風邪「きゃあ! 上司さんお茶が! だ、大丈夫ですか!?」

上司「ゲホッ……! ……大丈夫や、気管に入ってむせただけだから心配あらへん」

風邪「本当ですか?」

上司「ああ。それよか……儂が親代わりになって会うってのがよく分からんのやけど……。なしてそんな流れになったんや?」

風邪「それが私にもよく分からないんです」

上司「ほう」

風邪「一緒にお話している時、男さんが『よかったら今度ご両親に挨拶させてくれませんか』……と」

上司「ほー……」


ピキピキッ
風邪「あの……。お湯呑みにヒビ入ってません? すいません、突然こんなお願いをしてしまって。やっぱり……駄目ですよね」

上司「ええよ」

風邪「えっ?」

上司「めったに頼み事なんてせんお前が儂を頼ってくれとるんや、力にならん訳ないやろ」

風邪「上司さん……」

上司「いくらでも会ったるがな」

風邪「あ、有難うございます!」

上司「日時はまたこっちから指定させてもらうわ。それじゃあ、待ち合わせ当日にな」

風邪「はい、それではまた。……上司さん」

上司「ん?」

風邪「本当に……有難うございます」

上司「ええって」

風邪「ふふふ、失礼します」

上司「おう。気をつけて帰りや」


パタン

上司「……」


上司「ふ……ははは……」


上司「い~い度胸やないか。どれほどの奴かしっかり見させてもらうで……」












トポトポ


男「おおー。茶柱が立った…………かと思いきや、凄い勢いで沈んだ!? えっ、何これ?」







スタスタ


男「う~わ~、緊張するなあ」

風邪「大丈夫ですよ。大らかな人ですから、どうぞ気を楽にして下さい」

男「そ、そうですか(とは言われても緊張して仕方ない……)」

風邪「ふんふふ~ん……」

男「あはは、楽しそうですね」

風邪「わ、分かりますか?」

男「そりゃあもう。これから会う上司の方が大好きなんだなーって」

風邪「男さん、エスパーの素質がありますよ」

男「は……はは、どうも……(俺レベルでエスパー候補なら、誰でもなれそうだな~)」
男「えーっと、待ち合わせ場所どこでしたっけ?」

風邪「『△△』という喫茶店です」

男「そう、それそれ」

風邪「上司さんからの説明では、確かこの辺なんですけど……」

男「△△…………あっ、あの緑の看板の店じゃないですか?」

風邪「はい、多分あのお店だと思います」

男「よし! 心の準備できました。行きましょう!」

風邪「だから大丈夫ですってば~」


スタスタ


風邪「あら……? 上司さん窓際の席に座っているみたいです」

男「(窓際の席……。あ~、あの恰幅のいい人か。穏やかそうだ……、あの人なら仲良くできそうだな)ああ、あの方ですか」
風邪「男さん……視線を向ける方向ずれてませんか?」

男「え? あの本を読んでいる男性ですよね?」

風邪「やっぱり違う人見てましたね。視線、もう少し左にずらして下さい」

男「左……?」

風邪「色の付いた眼鏡をかけている人ですよ」

男「………………え」

風邪「男さん?」

男「(あ~、あの黒のサングラスにスーツの……。黒の………………嘘だろおおお!?)」

風邪「どうかしましたか?」

男「……ハイ? ドウモシテナイデスヨ?」

風邪「顔引きつってません?」




キイイ……


上司「お、来よったな。よう!」

風邪「こんにちは」

男「(大丈夫だ大丈夫だ……。人は見かけじゃないし、ヤンキーほど優しいって言うし……頑張れ俺……!)」

上司「わざわざ来てもらってすまなんだな」

風邪「いいえ、そんな」

上司「ほんで、君が……」

男「(来たぁー!)は、初めまして! 男と言いまずっ!」

上司「(舌噛みよった……)」

男「ろ……ろうぞ宜しくお願いします……」

上司「(初対面での挨拶で舌を噛んだ奴を見たんはこれで二回目やな……)」

風邪「男さん! 大丈夫ですか!?」

男「へ、平気れふ……」

上司「(誰かさんと似とる……)まあ、そんなに緊張しなさんな。とりあえず……座った方がええんとちゃうかな?」

男「は、はい」


男「……(この場合、彼女にはどちらに座ってもらえばいいんだろう。この立ち位置からいくと、俺が先に席につくことになるけど……。その際に俺が奥に詰めて彼女に隣へ来てもらうか、それとも彼女を向かい側……つまり彼女の上司の隣に座らせてあげるのがいいのか……)」


男「(どーするよ俺!)」

上司「(そういや、風邪の奴はどっちに座るつもりなんやろ。ここは若いもん同士を横に座らすんが……いやいや、儂があの若造に気を使う必要はないな。しかし、風邪を儂の横に座らしてもなあ……。あかん、何か違和感のある光景や)」


上司「(はてさて……どうしたもんかな」
男・上司「(う~む……)」

風邪「(男さんも上司さんも、難しそうな顔をしてどうしちゃったのかしら……?)……あっ!」

男・上司「ん?」

風邪「すいません、私ったら気がつかなくて……」

上司「(うん? アイツが勝手に好きな方へ座ってくれるんか? まあ、それならそれで……)」

男「(すごく助かるんだけどな……)」

風邪「どうぞ男さん!」

男「へっ?」

風邪「遠慮せずに上司さんのお隣に座って下さい」

男・上司「(な、何ぃー!!?)」

風邪「ささ、どうぞ」

男「(うわあああ! 俺どうしたらいいの!? 隣に座りたくないなんて口が裂けても言えないけど……)」


チラリ


男「(やっぱ怖えぇー! 隣に座るとか無理無理!)」

風邪「どうかしましたか?」

男「あ……えーと……」

上司「ふ、二人ともそっちに座ったらええがな」

風邪「えっ? 男さんはそれで宜しいんですか?」

男「あ……はい(宜しいどころか万々歳なんですけど)」

上司「男二人が並んで座るには狭いやろ」

風邪「確かに……。それもそうですね」

男「(助かった……!)」

上司「(はあ……。よう分からん流れになってしもうたけど、一番違和感のある光景は何とか避けれたな)」

上司「二人とも何か飲みや。ほれ、メニュー」

男「ありがとうございます。あ、お先にどうぞ」

風邪「隣ですから一緒に見れますよ」

男「そうですね」

上司「……」

男「(あれ? 急に寒くなった……?)」

風邪「えっと……」

男「種類が沢山ありますね」


上司「(だああああ! 近い近い近い!)」

男「何にしようかな。(よし、ここでコミュニケーションを……!)あの、オススメとかありますか?」

上司「あまみ……コーヒーとかええんやないかな」

男「あ、分かりました(今……雨水って言いかけた? ま、まさかなー……)」

上司「(いかんいかん、冷静さを失う所やった……)」

店員「ご注文の方、伺いましょうか」

男「俺はコーヒーを」

風邪「私はピーチジュースをお願いします」

上司「ああ、それともう一杯コーヒー頼むわ」

店員「かしこまりました」

上司「(『店員さん、この若造には雨水で充分や』……なーんて言えたらええのになあ)」

男「(この店クーラーよく効いてるな……)」

上司「男君は今大学生らしいな」
男「はい、○大に通っています」

上司「ほう、そうか」

男「あ、そういえばお二人は上司と部下という関係なんですよね」

上司「ああ、そうやで。新米やったコイツを指導したんが儂でな」

風邪「懐かしいですね」

男「(よしよし、話が盛り上がってきたぞ)そうだ、お二人は何の仕事をされているんでしたっけ?」

風邪・上司「!?」

男「(あ、あれ?)」

風邪・上司「…………」

男「(俺……もしかして地雷踏んだ?)」

上司「仕事……な、そうやな説明が難しいなあ」

風邪「は、はいそうですね!」

男「……?」

上司「販売……いや、配達業と言うんかな」

男「そうなんですか」

上司「あ、ああ……」

風邪・上司「……」

男「(うわあああ! 何か急に気まずい空気が流れてるじゃないか! か、会話を)あのっ……」


ガチャン!


男「どわっ!」

風邪「大丈夫ですか!?」

男「え、ええ……俺は平気なんですけどコーヒーが……」

上司「大丈夫や。こっちは片付けとくから洗面所で拭いてきいや」

男「は、はい。すいませんお願いします」


タタタッ

上司「…………」

風邪「もし、男さんが……」

上司「うん?」

風邪「男さんが私たちと同じなら、今さっきみたいなやりとりもなくて、上司さんも笑ってくれていたでしょうか……?」

上司「……」

風邪「なんて事を、考えてしまいました」

上司「……そうか。でも、儂らとあの男が同じになるなんて無理な話やな」

風邪「……はい」

上司「それでも……お前はここにおる事を選びたいか?」

風邪「……」

上司「お前がここにおる限り、今さっきみたいに答えに困るような場面には必ず出くわすやろ。そうやとしても……」

風邪「ええ、それでも……です。それでも私はここに居たいんです」

上司「ならそれでええやないか」

風邪「だって、あまりにも上司さんが笑わないから……」

上司「まあ……笑える訳ないやろ」

風邪「えっ!?」

上司「お前の親代わりとして儂はここに来たんや。つまりは、父親としてこの場におるんやと……儂は勝手に思っとる」

風邪「……」

上司「ええか、一回しか言わんぞ。大切な娘が彼氏を連れてきたんや。こっちも真剣にならなアカン。せやから笑えないんや」

風邪「……!」

上司「まあ、娘をかっ攫われる悔しさも(物凄く)あるけどな、それより……儂はちゃんと見極める義務があるんや。あの男にお前を任せてええのか、あの男でお前は幸せになれるんか、をな」

風邪「じょ、上司さん……! ありがとうございます。上司さんが私を娘のように思ってくれているだなんて……嬉しいです」

上司「せやから、ちょいと仏頂面なんは勘弁な」

風邪「はい! ……ところで上司さん」

上司「ん、何や?」

風邪「“かれし”とは何を指す言葉なのでしょうか?」

上司「………………はあ?」

風邪「す、すいません! どうしても分からなくて……」
上司「(こ、こいつらまさかまだ……!)」

風邪「あ、あと一つ上司さんに申し上げておくことが……」

上司「…………(いやいや、それはあり得んやろ……)」

風邪「上司さん?」

上司「んん!? ああ、悪い悪い。何やったっけ」

風邪「はい。一つ訂正しておく事が」

上司「ほう」

風邪「上司さんは今さっき、男さんで私は幸せになれるのか、と仰いましたよね」

上司「ああ、言ったな。あの男がお前を幸せにできるんか……やっぱり気にはなるな」

風邪「その事なら大丈夫ですから」

上司「大丈夫?」

風邪「はい。男さんが私を幸せにしてくれるとか、私が幸せにしてもらうとかじゃないんです」

上司「……」

風邪「男さんと一緒に居られる事がそのまま私の幸せに繋がっているんです」


上司「……そうか」

風邪「はい」

男「……」

上司「……なあ」

風邪「はい?」

上司「男くん後ろに居るけど……ええんか?」

風邪「…………え?」


……クルッ


男「ど、どうも」

風邪「…………! いつからそこに……!?」

男「少し前から……ですね」

風邪「と言う事は今さっき私が全部言った事も全部聞いて……! いやあああ恥ずかしいー!」


タタッ


男「あっ」


バタン!


上司「今度はアイツが洗面所にこもってしもた……」
上司「……とりあえず、アイツ呼び戻してきてくれんかな。洗面所占拠してても店に迷惑やし」

男「は、はい」

上司「あと……男くん」

男「何でしょうか?」

上司「アイツを宜しく頼むで」

男「…………! はいっ!」


ダッ


上司「あ、そうや。男くん男くん! スマン一つ聞き忘れたんやけどな」

男「?」

上司「多分やけど、アイツに……告白すんの忘れてるんやないか」



男「………………あ」

上司「やっぱりかい。はあ~、これじゃ順番が逆さまやないか」

男「あああ~!!」

上司「まあ……ええか」




特別編
【男と風邪と上司が3人で会う話】 完
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