序『限リナキ異端』
夜の街は面白い――
1ヶ月もの間、僕は深夜のネオン街を徘徊していた。
『欲望の坩堝』というのはやはりチープな言い回しだろうか。客引きのホステスが立ち並ぶ煌びやかな通りの裏では当たり前のように値段交渉をするあまりにも幼い娼婦と脂ぎった中年――
ここが本当に日本かと疑いたくなる光景にも漸く慣れた所だ。
目的はあるものの特にゴールを決めずにただたださ迷う。そんな浮浪者の様なことを僕は続けていた。

始めの内は明らかに未成年な僕に排他的な冷めた視線を叩きつけていたこの街も、徘徊を繰り返す内に僕を気にしないというところまで来た。
何が起きようが僕という存在には関与しない――
そういう傍観者という意味では、あまり変化はない。しかし僕がこの街にいることが異常だと思われなくなったことは重要なことだ。
もしも僕がこの場で殺されたとしても、特にニュースにもならずに処理される。そういう意味ではこの街は異常なのだろう。

――あぁ、またサイレンか……


ネオンの明かりと、飛び交う怒声にサイレン。淫靡に誘う毒蛇の微笑み――


薄汚れたビルの壁に寄りかかり、缶コーヒーに口を付ける。

「いつ来てもこの街は『美しい』――」

ポツリと流れる独り言は産まれた瞬間、喧騒に掻き消えてしまった。


阿鼻叫喚に身を任せ、目を閉じると不思議と安心できた。学校という明るい空間では感じることは有り得ない異常――
それを素直に心地よいと感じられる僕自身もやはり異常なのだろう。

1ヶ月間もの徘徊によって得られたのは僕がやはり異端だという再確認だけで目的としていたことは全くと言っていいレベルで何も得られていない。


「『吸血機』ねぇ……」


『吸血機』


その言葉を聞いたのはちょうど一ヶ月前――
とある友人の一言だった。


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匿名読者
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