「………」 by沖川
今日も生徒会室は平和だ。

「ドロー!モンス…あ、魔法カードだ…」
「後ニターンでプチモスは最終進化を遂げる…」

二人の生徒会役員の声が響く。

どうやら永田と堺が熱いデュエルを繰り広げているようだ。

ちなみに、魔法カードを引いたのが永田であり、インセクターが堺だ。

本当に、今日も生徒会室は平和だ。

…っと、生徒会室に誰か入って来たな。

「ちょっと!ここは生徒会室です!二人とも止めなさい!」

部屋に入ってくるなり、眼鏡を掛けたウォーズマンが叫ぶ。

相変わらず背が低い。

「ちょっと!会長も止めさせてください!」

俺の姿を見るなり俺に矛先を向けやがった…。

うるせぇなこのウォーズマンは…。

しょうがない。

「無・理」

俺は仕事人らしく簡潔迅速丁寧に返事をする。

「はぁ?何で?ここは生徒会室! あんなことして許されるの!?」
「うん」
「理由は!?」
「俺が許可したから」

………。

おーおー。

すっかりマジギレモード入ったな。

「とりあえず…落ち着こうや、ウォーズマン」
「…誰が…?」
「お前以外誰がいるんだよ?」
「会長、私の名前は?」

うわー眼鏡の奥で目が座ってやがる。

ここは怒らせないようにしよう。

「名前って。もちろん生徒会副会長の…」

あれ?

こいつ、何て名前だっけ?

…まぁいいや。

こいつの為に思考時間を二秒も使っちまった。

もったいない。

「ウォーズマン」
「私は…岡嶋です!」

あっ、そう。

「俺、今忙しいから」
「…どうみても忙しく無さそうなんですけど?」
「今、忙しいからそれ以上話しかけんな」
「…暇なら、あの二人止めたらどうですか?」
「あの二人、今日の分の仕事終えたから」
「…会長はどうなんです?」
「終わった」
「…何が?」
「お前らに仕事をさせる事。これ、お前の分だから」

俺は今日やり終えるべき仕事を机の上に置く。

「あ、他の二人は今日部活だとよ」

さて、言うべき事は言ったな。

「おつかれさん」
「まだ俺のターンは終了して無いぜ!」
「甘いぞ項樹!」

二人の別れの挨拶を聞き届けて、俺は生徒会室を出た。

ああ。

部屋を出るまでずっと、後ろから怒鳴り声が聞こえていたな。

…うん、どうでもいいや。

靴箱…靴箱ぉ~っと。

「おいっす」
「………」
「うっす」
「………」
「…あの、俺が靴箱に挨拶してる変態に見えますよね?」
「………」
「…せめてリアクションをお願いします、沖川さん。いや、マジで」
「………(スッ)」

沖川さんは会釈をした。

同じクラスなのだが、どうやら嫌われているらしい。

いや…男子全員がか?

この人の声を聞いた男子は…今の所居ないらしい。

「…あれ?部活は終わってんの?」
「………(コク)」
「…なら、そろそろ森下が来ても…」
「あれ?淳何やってんの?」
「おうぁっ!」

後ろから声をかけられて驚かない人、挙手!

もちろん、俺は手を上げない。

「森下!後ろから声をかけんなつってんだろ!」
「ふ~ん?あ、紗恵ちゃんナンパしてたんだ~?」
「してねぇ!」
「嫌だったよねぇ、紗恵ちゃん?」
「………(コクリ)」
「え?俺、挨拶すら許されないの?」

あの…沖川さん?

正直、めっさヘコむんですけど…。

「人の嫌がることしちゃいけないよ?」
「…もういい。帰る」

帰ろうと歩き出そうとすると、森下に肩を掴まれた。

「…なんだよその手は?」

やべぇ、ピクリとも動かねぇ。

「紗恵ちゃんに嫌な思いさせといて…帰るの?」

手、手!

痛い痛い、イテェ!

「や、やめぃ!」

そういやコイツ合気道やってやがった!

ぐわぁ!

う、腕がもげる!

「ど、どうしろってんだ!?」
「そういうことだよ~」

待ってましたとばかりに森下が手の力を緩める。

…どうやら逃げられねぇな…。

逃げたらまず、腕をもっていかれるパターンだ…。

「な、何が望みだ?」

我ながら想像以上に…小者のセリフだな。

絶対殺されるタイプのセリフだわ…。

「今日は何曜日かな?」
「えっと…木曜…日」
「そうだね、木曜日だね」

…だからどうしたんだ?

「木曜日なら、近くのマルオカに来るよね?」
「あっ! さ、サラブレットのメロンパンか!」

サラブレットのメロンパン。

まぁ簡単に言えば…パンを売りに来ているパン屋だ。

このパン屋は毎週木曜日、学校の近所にあるスーパーマルオカの駐車場現れる。

オーブンを車に積んでパンを焼いているパン屋なのだが、その中でも特に、前面にアピールされているメロンパンが絶品だ。

そのメロンパンを何故森下が強調するか?

…答えは一つしかねぇよなぁ…。

「…メロンパンを…か、買えと?」
「もちろん」

さしずめ、沖川さんに嫌な思いをさせた慰謝料代わりといったところか…。

それで許してやるから私にも一つ寄越せ、と…。

森下の顔色を窺う。

「………(ニッ)」

森下がイタズラっぽく笑う。

正味な話、子供っぽくて可愛い笑顔なんだが…。

…目が笑ってねぇ!

この肩に置かれっ放しの手も怖いし…。

…従うか…。

「わかったよ…買って来るよ…」
「待って。私もついてく」
「森下も来んのかよ!」
「逃げたら困るじゃん。ちょっと紗恵ちゃんは待っててね?」
「…………(コク)」

あーあー。

別に逃げやしねぇのによ。

森下と二人並んで歩くハメになるたぁな。

「…ね、ね?」
「…あん?」
「本~当に、紗恵ちゃんをナンパしてたの?」
「してねぇ」
「そ、そう!良かった!」

何が良かった、だ。

ふざけんなこの野郎。

とは、口に出せないんだよな~。

「あっ、ほら早く買ってきなよ!」

急かすなチクショウが…。

えっと…メロンパン一つは120円だから…。

二つで240円だな。

「すんません、メロンパン二つ」
「はいよぉ。彼女さんと食べるのかい?」

パン屋のおばちゃん、それは壮大な勘違いだ。

「いや、あいつとあいつの友達の分っすよ」
「じゃあ何で二つ買うんだい?」

この手のおばちゃんは、なんでもかんでも色恋沙汰に繋げたがるから困る。

「罰ゲームです」
「そう~大変ねぇ~」

はい、大変です。

だって勝負無しの強制罰ゲームですもの。

「はい、どうぞ」
「どうもです」

…240円っと。

「はいはい…丁度だよ。ありがとうねぇ、またよろしくね」

おばちゃんからパン入りの袋を渡される。

なんか今日は疲れた。

さっさと渡して帰ろう…。

「はいよ」
「ん。ちゃんと買ってきたね~」

…頭を撫でられた。

森下の方が若干背は低い。

く…屈辱…。

「わかったから仕事をしてくれ」

未だに頭を撫でようとする森下の手から俺は逃れる。

「買う物は買った。じゃあな~」
「そだね。ばいばい!」

森下が元気よく手を振る。

ガキか。

軽く手を上げて答えてやる。

「あれ?二つ入ってるよ?」

後ろから、森下の声が聞こえる。

「ねぇ淳!二つ入ってるよ!」

まだ聞こえるが、無視。

嘘クサい声をあげやがって…一個しかなかったらテメェがまた買わせるだろうがよ…。

ま、本当に用があるなら後ろから追いかけて来るだろうし、ほっとこ。

………。

……。

…。

「…ほっ!」

フェイントで振り返ってみる。

…ほらみろ、誰もいやしない。

俺は道路を横切り家路を急ぐ。

「あー…腹減ったな…」

あー、もう一個かっときゃよかったな…メロンパン…。

はぁ…。
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匿名読者
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